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壮大に悩む

 人類史をテーマに芝居を書こうと思った。
 ここ三十年くらいの間で、人類史や日本人の成り立ちについて、新たなことがわかってきている。それは急速に進んだDNA鑑定の技術革新が大きな理由のひとつで、ミトコンドリアDNAの分析によって、現生人類(ホモ・サピエンス)の起源がアフリカの一人の女性であることがわかったり、核DNAの分析により、白人や黄色人種は、ネアンデルタール人の血が混じっていることがわかってきている。
 ミトコンドリアDNAは、変異を起こしやすいらしく、比較するとどのくらい昔に枝分かれした系統かということがわかるのだそうだ。その枝分かれした系統が、いくつくらい日本にたどり着いているかというと、20種類以上。ヨーロッパでは12種類程度らしいので、日本がいかに多様性に富んでいるかわかると思う。
 ではどのようにしてそんなたくさんの種類が日本に流れ込んできたのだろうか? 
 人類の拡散には、大きく二つの説があり、魅力的な土地や獲物を追って、優れた集団が拡散していった、というのが「引き寄せモデル」で、豊かな土地を追われた劣った集団が仕方なく拡散していったのが「押し出しモデル」である。
 人類は牙や爪といった武器も持たず、木登りも下手で、足も遅く、生まれた直後に立つこともできない。言ってみればダメな野生動物で、そうなると拡散の動機もダメだから仕方なく拡散していったと考えた方が自然な気がしている。
 もちろん、単純にどちらかに収斂されるものでもないだろうが、とにかく、日本列島には吹きだまりのようにダメな人たちが集まってきているのではないだろうか? と考えてみたのだ。元々がダメなので、ちょっと褒められたりするとすぐいい気になってしまったり、けなされると、もうダメだ、みたいになったり、威嚇されると過剰に反応してしまったりする。
 そんな壮大な人類史を背負って、日本列島にたどり着いたダメな日本人は、ささやかに世界でも類を見ないユニークな文化を築いてきた。
 そんなことを考えながら、今回の作品を書こうとしているのだが、どう考えても手に余っている。仕方がないので、とりあえずそういうことは置いといて、というか、後ろの遠くの方に霞んで見えるくらいに意識しながら、芝居に向かい合おうと思っている。

2018年9月28日(金)29日(土) 30日(日)架空の劇団第20回公演「生還」のチラシ裏に書いた文章

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