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単発商材における分業制営業・マーケティング

お久しぶりです。あぶかわです。2024年がはじまりましたね。

THECOOに入社して1年半が経過し、前職でのBtoB SaaSのマーケティングの経験を活かしながら広告代理店業のBtoBマーケティングを行ってきました。2023年、1年間かけていろいろな施策に取り組む中で、スポットの取引を繰り返すビジネスモデルでは、SaaSのサブスクモデルのマーケティングとは前提条件や常識が違うなあと感じることが多々ありました。

最近よく語られるBtoBマーケティングは、サブスクモデルである程度高いLTVが見込めるビジネスモデルを前提にして語られてることが多く、商品・サービスの納品を繰り返す単発モデルでのBtoBマーケティングを行ううえでチューニングが必要な部分もあります。この記事では1年間の取り組みを振り返りながら、私なりに成果をあげるためにビジネスモデルに関係なく活かせる部分を紹介していこうと思います。

ちなみに1年前、入社半年後に書いたnoteはこちらです。文章は稚拙ですが、BtoBマーケティングの立ち上げのステップが書いてあります。


THECOOのデジタルマーケティング事業の特徴

私が2023年に取り組んできたデジタルマーケティング事業は、インフルエンサーマーケティングを中心とした、いわゆる広告代理店業です。広告主とインフルエンサーやインフルエンサー事務所の間に入り、プロモーションの企画からキャスティング、投稿管理を行う業務が中心です。インフルエンサーの投稿や稼働を納品物とする無形商材を扱うとイメージいただければよいかと思います。

既存顧客からの売上が大半を占める

サブスクモデルのビジネスであれば、新規のARRと既存のARRを別で追いかけることが多く(既存はチャーンレートをKPIに持つことが多い)、新規のトップラインの伸びを評価することが多いです。

一方で、いわゆる広告代理店業のTHECOOのビジネスでは単発の売上の繰り返しを通じて売上が高まっていくものであり、新規と既存の分類をあまり重視していません。とはいえ、売上の柱は既存の大口顧客からの継続受注となるため、主に新規受注をKPIと置くマーケティング活動のビジネスへの影響度は限定的になってしまいます。

また、マーケティング主導で新規の引き合いを伸ばしても、人が介在するビジネスモデルでは案件を進行できるリソースに限りがあるため、その影響力が限定的となってしまいます。

新規顧客からのLTVが読めない

インフルエンサーマーケティングは年々実施する企業や、企業あたりの実施回数は増えてはいますが、先ほども書いたように、インフルエンサーの投稿や稼働を納品物として繰り返すビジネスモデルであり、LTVが読みづらいところが単発商材の難しいところだと感じています。

有形商材ではなく、広告主の要望に応じて起用するインフルエンサーや企画内容もさざまなため、ご依頼いただく際の予算や頻度は企業・案件によってさまざまです。また、代理店ごとの差別化要素は定性的なものが多く、スイッチングコストが非常に低いため、継続的に取引いただけるかどうかも非常に読みづらく、年によって新規受注企業の平均LTVが大きく変わってしまいます。

そのため、サブスクリプションビジネスでよく用いられるユニットエコノミクスを応用して考えることも難しく、マーケティングROIは実績ベースで振り返る形となってしまいます。

成果

資金調達を行っているスタートアップでは、ある程度の予算を投資してトップラインを伸ばす戦略を取ることが多いですが、ビジネスモデル的に相性のよい考え方ではないので、一般的な企業のマーケティングと同様に限られた予算の中で目に見える効果を出していく必要がありました。

2022年に入社から半年間かけて土台を整備し(つつ小さな成果を残し)、2023年はインサイドセールスも巻き込んだ戦略的なプランを立てて施策を積み上げていきました。

今年はお客様の信頼、そして市場からの信頼を大きく失ってしまう事件もあり、二度と同じことを起こしてはならない1年となりましたが、その中でもお客様への貢献に真摯に取り組み続けた結果、マーケティングとしては手応えを感じられる1年にもなりました。

受注金額に占めるマーケティングGenの貢献度の向上

2022年のQ4(THECOOは12月決算です)から本格的にマーケティング活動に取り組むようになりましたが、リード獲得を強化してから、商談創出、受注貢献と、それぞれ大体2Qずつくらい遅れて成果が上向く傾向にあることがわかりました。結果として、マーケティング起点商談の受注金額も増え、受注貢献率は直近の四半期では昨対で6倍近くまで増加し、年間でも2倍以上という成果を収めることができました。

商談創出金額・件数の増加

より直接的な貢献度がわかるマーケティングGenの商談創出においても大きな成果が出せました。昨対で商談創出金額が3倍を超える四半期があり、年間でも昨対で2.7倍となりました。件数ベースでも1.5倍超を維持し続けることができ、商談件数を増やしつつ、商談単価も高めるという理想的な動きができました。

インバウンドリード商談比率の向上

純粋なマーケティング施策の成果としても、リード獲得数の増加に加え、見込み客からの能動的なアクションからアポイントを取得し、フィールドセールスに渡すインバウンド商談の比率が高まりました。

インバウンド比率は、2021年には60%弱であったところから、2022年には75%程度まで引き上げられていましたが、2023年はさらに80%台にまで高めることができ、直近の四半期では90%にまで高めることができました。

ビジネス全体で見ると機会損失が生まれている可能性がありますが、決してアウトバウンド起点の商談創出数が減っているわけではなく、FORCASを導入してターゲット企業への優先的なアプローチを行ったりと、マーケティング課題を解決しうるお客様へのアプローチを強化した結果であり、お客様がTHECOOのマーケティングの情報に関心を持っていただいていることは間違いありません。

単発商材のBtoBマーケティングで効果が出た手法

最近はBtoBマーケティングの手法について整理された本が数多く出ており、国内で一般的に行われている手法は概ね網羅されていると感じます。

マーケティングを強化していく際、限られた予算やリソースの中では、成果が不明確な最新のマーケティング手法に飛びつくよりは、ある程度効果が実証された手法を取り入れる方が確実に成果を出して社内からの信頼も得られると思います。

以下の本は私も読みましたが、X界隈でもよく目にします(しました)ね。

その中でも、私が実務を行いながら成果を感じたことを4つほど紹介します。

マーケティングチャネルごとに成果を積み上げる

予算やリソースが限られているからといって、マーケティングチャネルを絞って施策を実施するよりも、ある程度幅広いマーケティングチャネルに手を出しつつ効果測定を繰り返していくことが成果につながりました。

THECOOでは四半期ごとに施策単位のボトムアップ計画を立て、管理しています。それぞれのマーケティングチャネルの基準(リード獲得数、獲得リードからのアポ取得率)を定めておき、各チャネルごとに実施数をかけあわせることで、全体としての成果が目標を超えることを目指します。

以下のような表を作っています(実際にはスプレッドシートで作っています)。

チャネルごとにアポ獲得数をボトムアップで想定し算出

チャネルごとに施策を組み立てた上で、各チャネルごとのオーナーをチームメンバーに任せることで、それぞれが基準となるリード獲得数、アポ取得率を目指しながらマーケティング全体としての達成を目指していきます。

理論上目標を達成するプランを立てられれば、あとは個別施策の成果をいかに高めていくかに集中することができます(個別施策やメッセージングにどれだけ力を込められるかが重要)。

マーケティングはまだまだ経験者も少なく、最初から自走できるメンバーで固めることは難しいのではないでしょうか。そんな状況でもメンバーの経験値を素早く高めるために、マーケティングチャネルごとにオーナーを分けるのはおすすめです。

ROIで評価しづらい認知目的の施策にも一定の投資をする

マーケティング活動は基本的にはコストがかかるため、ROIとは切っても切れない関係にあります。特に業績が良くないとマーケティング予算はシビアに見られるため、短期的なROIが回収できるものに注力するようになってしまいます。そうでなくても短期的に成果を上げた方が社内でも評価されやすいので、どうしても獲得・コンバージョンに近いような施策を重視してしまいます。

認知といっても、テレビCMやトゥルービューの動画広告、SNSの公式アカウントの運用などで無差別に広く訴えかけるという意味ではなく、リード獲得もしつつ、ターゲットになりえる人になるべく多くリーチし、サービス認知を進める「二兎を追う」意識が必要かと思います。

マーケティング施策でいうと、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • 外部主催のスポンサーイベント

  • メディアへのバイライン(寄稿)

  • (ターゲティングを広めに設定した)SNS広告

どれくらいの比率で投資するかは企業のフェーズや状況によるので一概には言えませんが、THECOOでは概ね予算やリソースの20〜30%程度を認知を兼ねた施策に費やしていました。

信頼度を高めるコンテンツマーケティング

2023年はChatGPTの登場で、BtoBマーケティングにおいてもSEOの立ち位置が揺らいだ1年でした。依然としてSEOが重要であることは間違いないですが、ちょっと情報を調べるだけならAIが簡潔に教えてくれるようになりました。その結果としてオウンドメディアの目的がブランドの信頼度や権威性の向上、ナーチャリングを通じた態度変容に移ってきていると感じます。

BtoBマーケティングにおけるコンテンツマーケティングの柱は、テキストの記事を中心としたオウンドメディアが一般的ですが、信頼度を高めるオウンドメディアのコンテンツは他社のSEO記事を参考に外注のライターが書いただけでは書けないような記事を増やしていくことだと考えています。

それは単なるまとめ記事ではなく、THECOOにおいては以下のようなものでした。

  • 独自のノウハウがなければ作れないボリューム・内容のホワイトペーパー

  • アンケート項目を独自に作成し、実施したネットリサーチ

  • 毎月の市場トレンドを紹介したレポート

上記のものは既存リードへのメールでも反応が高く、労力に見合った効果があったと感じています。これ以外にも、サービスページの細分化や顧客事例などはお客様に自社の安心感を与えつつ、多くの方の関心は得られずともニーズが顕在化した人からの問い合わせを増やす意味では効果がありました。

コロナ禍以降の施策トレンド

コロナ禍ではほとんどの施策がデジタル化しましたが、2023年には概ね落ち着いてきたことで、コロナ禍以前の施策の復活やコロナ禍でよく行われていた施策の成果に変化が出てきました。そのあたりについても少し触れたいと思います。

展示会の復活

コロナ禍でオフライン施策が一旦途絶えてしまいましたが、2023年には展示会の賑わいもほぼコロナ禍以前に戻ったように感じます。オンライン施策に慣れてしまうと展示会の準備や当日の運営はかなりの手間ではあるのですが、わざわざお越しいただいている方々とお話できるため、その後の商談につながりやすいのと、対面でお客様の課題感などをお聞きできることは営業にとってもマーケティング担当者にとっても貴重な情報をお聞きできる場でもあり、その後の施策につなげることもできます。

また、何日間か開催される展示会であれば、運営しながら改善が図れるのも成果につながりやすいポイントです。展示会をブランディングと位置づける企業も多いですが、予算に限りがある企業であれば、ブースを大きくするよりは出展回数を増やしてリード単価を細かく管理しながら成果を追求する方がよいと思います。

ウェビナーへの反応が思ったより落ちない

ウェビナーへの申込者や視聴者は2020年、2021年ごろと比較するとどうしても減ってはいますが、2022年以降は下がり続けることはなくそれなりの数の方に視聴いただいています。その意味では、マーケティングチャネルとしてのウェビナーは、少なくとも我々が対象としているマーケティング担当者の間では受け入れられている実感があります。

その中でも成果を高めるには、トレンドに乗ったテーマを話すことが重要です。例えばインフルエンサーマーケティング関連だと、2023年10月のステマ規制に関するウェビナーでを実施した際には、それ以外のテーマのウェビナーと比較して5倍程度の方に視聴いただいたりもしました。

とはいえ、流行に乗っかり続けていると、ターゲット外の方やニーズが顕在化していない方の参加が増えてしまいインサイドセールスが疲弊してしまいますので、話し手が話したい内容でのウェビナーと多くの方が聞きたい内容でのウェビナーのバランスが重要だと思います。ウェビナーを計画する際には、トレンドをテーマにしたものを1/3くらい挟み込めれば、多くの方の注目を集め、最先端の企業としてのイメージがつくのではと思います。

SNS広告の落ち着き

コロナ禍で地味にトレンドになったのがBtoB商材でのMeta広告だったように感じます。当時はリスティング広告と比較して1/5のCPAになることもザラにあったのですが、直近は割とCPAが落ち着いてきたように感じます。

とはいえ、運用型広告は競合に影響される部分が多いので、ターゲットが合うようであれば、簡単な動画を作ってTikTok広告などもやってみて成果を確認したいところですね。

BtoBマーケティングに本質的に必要なこと

ここまではけっこうマーケティングの中でもデマンドジェネレーションと呼ばれる、施策単位でROIが図れるものを取り上げてきました。しかしながら、上記のことをやっても全体の成果としては想定可能なレベルでしか上振れさせることができません。やはりマーケターとしては非連続的な成長をマーケティングの力で生み出してみたいと思いますし、私も実現してみたいなと思っているところです。

これから書くことが正解かはわからないですが、私自身はBtoBマーケティングにおいて本質的に重要なことだと考えており、今年はこれまで以上に力を入れて取り組んでみようと思っていることを紹介します。

市場のトレンドをつくる

有形商材のマーケティングの場合にはプロダクトや開発の力が大きく、マーケティングだけで大きなトレンドを作り出すことは難しいこともありますが、広告代理店業を含むソリューション型のマーケティングの場合には、マーケティングの力で市場のトレンドを生み出し、非連続的な成長を巻き起こすことは可能だと考えています。

トレンドとなるソリューションは大きく分けると以下の3つから生まれるのではないかと考えています。

  1. 顧客のBurning Needsを見つけ、その解決策をソリューション化する

  2. 自社商材・サービスの成功事例を体系化し、ソリューション化する

  3. 海外で先行しているソリューションを輸入する

1から3にかけて難易度が下がる一方で、追随容易度も高まります。

このソリューションをどのように広めるかにも、大きく分けると3つの方法があると考えます。

  1. 自社の社員がエバンジェリスト化する

  2. 業界のインフルエンサーの影響力を活用する

  3. 口コミでの盛り上がりを作り出す

1が最もコントロールしやすく、多くの企業が取り組んでいることだと思いますが、2や3もあわせて取り組むことができればさらなるインパクトがもたらされるのではないでしょうか。

営業とマーケティングの連携

営業とマーケティングの連携は永遠のテーマだと思いますが、真の意味で営業とマーケティングが連携できている状態を作り上げるのは非常に先が長いように感じます。マーケティングチームが営業と連携するためには、マーケティングが全部or部分的に担う役割は多岐にわたります。

マーケティングチームが市場調査から携わるのか、分業制の前半部分を担えばいいのか、顧客体験全体を統括するのか、などの条件で求められることはさまざまかとは思いますが、私がマーケターとして担っている役割の中でぱっと思いついただけでも以下のようなことが挙げられます。

プロセス管理

  • 認知獲得(多くの場合はリーチor Webトラフィック)からロイヤル顧客化までのレベニュープロセスの定義

  • マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスの理想的な役割分担の定義

  • 受注に占めるマーケティングGenとセールスGenの目標比率の策定

  • 営業フェーズにおけるマーケティングのタッチポイントと求める役割の定義

  • カスタマーサクセスフェーズにおけるマーケティングのタッチポイントと求める役割の定義

  • レベニュープロセスにおける各フェーズの数値管理

  • レベニュープロセスのバランスが崩れた際の修正

セールスイネーブルメント・メッセージ開発

  • 受注・商談状況にもとづくターゲット企業の選定

  • お客様へ届けるメッセージの一貫性の担保

  • 作成したメッセージの営業担当者への浸透

  • 各レベニューステージにおけるセールスプレイの開発と浸透

  • 成功事例の発見と事例化の依頼

データ・テクノロジー面

  • データドリブンな改善を行うためのCRM基盤の整備

  • ダッシュボードベースでの数値進捗管理

  • テクノロジートレンドへのキャッチアップと組織内共有

CRM・MAを中心としたデータマネジメント

マーケティングは特にテックタッチを中心に顧客体験を司る担当でもありますし、営業との比較でいうと少し長いスパンでビジネスを捉えながら活動を計画していくため、データを正しく取得し、読み解くことが欠かせません。そういう意味では、BtoBマーケティングでもはや必須となったCRM・MAの導入・活用はマーケティングの重要な役割ですし、正しくデータを集め、そのデータに踊らされずに正しい方向決めと意思決定ができることが非常に重要だと感じています。

近年では日本でも「マーケティングオペレーション」という役割が注目されるようになってきていて、この領域を突き詰めることができれば、限られたマーケティング予算でも、広告などのリード獲得施策の寄与度を下げながら、営業への貢献度を大きく高められると考えています。

まとめ

単発商材におけるマーケティングという一見汎用的なタイトルでありながら、すごく自社のマーケティングの話が中心になってしまいましたが、2社でBtoBマーケティングをやってきて、ある程度成果が出るための基本はあると感じるようになってきました。

2024年は別事業のマーケティングも担当するので、相変わらず自分のことでいっぱいいっぱいですが、もしBtoBマーケティングに携わられている方でこの記事を読んで話をしてみたいという方がいらっしゃればXのDMなどでお声がけください。

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https://twitter.com/abukawamktg


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