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みさき先輩 後編

#小説

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「おつかれさまーー」
「こつん」
彼女の声とジョッキがぶつかった音がハモる。

狭めのテーブルには、カラオケ機器のようなタブレットと3つに折りたたまれたメニューが置かれている。

彼女は慣れた手つきでタブレットを操作する。

「食べたいものあるー?」
「なんでも食べれますー」
「おけー」

お酒が入って、顔が少し火照っている彼女も、カーディガンを脱いだノースリーブ姿の彼女にも興味はあるが、どうしてもこの後のお会計のことが頭から離れなくて、全力でこの場を楽しめない。

目の前に座っているこの可愛い彼女が、僕みたいな平凡な1回生のところにまで悪い噂が届く人には到底思えない。多少、キツそうなところはあるが、普通に優しいし話も面白い。まあ強いて言うなら可愛すぎるってことぐらい。「付き合っては、貢がせて振ってを繰り返してる」という噂を微塵も感じない。

「そろそろ帰ろっか」
「そうですね」

彼女にドキドキしているのか、お会計にドキドキしているのかはっきりしない感情と共にレジに向かう。

先にレジの前に着いた彼女は店員さんに何かを言って、数秒後iPhoneをある機械にタッチした。

「ありがとうございましたー!」
店員さんの声でお会計が終わったことが分かる。

「ごちそうさまです」
ドアを引く自分。

「こちらこそだよ、お昼はお金貸してくれてありがとうね!」


***

帰りの電車。僕らが乗った車両には端に居る酔っぱらったスーツの男性以外誰も居ない。僕は彼女の横に座らず、向かい合うように座った。横に座ると何かが起きそうだったから。

「さっきからずっと、なんか言いたそうにしてるね。 当ててあげよっか?」

こくりと頷く。

「今、彼氏いますか? でしょ?」

「もちろんそれも気にはなるけど、それより今はあなたの噂についてです!」と心の中で叫ぶ。

「違いますよー」

「冗談、冗談! 私の噂のことでしょ? 貢がしてるってやつ」

「あ、知ってるんですか?」
いちよう申し訳なさそうに言う自分。

落ち込むかなと予想した自分が馬鹿馬鹿しいと思うくらいの笑顔で彼女はこう言った。

「知ってる知ってる! みんな、噂話下手なんだよねー、するならもっと隠れてしないと。それで傷つく子もいるんだから! こんなこと言うと調子乗ってるかと思われるけど、こんな顔に生まれちゃうと、自分は何もしてないのに、勝手に敵ができるんだよね」

笑いながらそう言う彼女はすごくかっこよかった。

これ以来、2人で会うことはなかったが、みさきと言う名前を聞くたびにこの日のことを思い出す。

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