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みさき先輩 前編

#小説

危ない人にこそ、惹かれる時がある。

夏休みが終わって、後期が始まった頃、テニスサークルの同期の男子達はある人の話で盛り上がっていた。

「今、券売機の前にいるノースリーブの人がみさき先輩だよ」

「あの、付き合っては、貢がせて振ってを繰り返してるって噂の?」

「そうそう」

彼女の服から出ている細くて白い両腕に魅了されていた僕は、その会話が左から右へ、すーーーっと流れるはずもなく、「え、あの人が?」と思わず反応した。

「そうだよ、りくとのタイプっぽいね!? でも、あの人はやめときなよ」

「いや、そんな話聞いたら近づけないよ(笑)」

初めの彼女の印象は最悪だった。
だけど、ぼくは確実に彼女の虜になっていた。


***


みさき先輩が大学に来るのは月火水で、それらの日は決まって12時半頃に食堂に来る。

彼女はいつも1人で来て、席が空いてるかどうかを確認せず、そのまま券売機に向かう。食事を受け取ったら、友達を探して、その人たちと一緒に食べる。というのがお決まりのパターン。だから、券売機での遭遇が唯一のチャンス。

今日も入口が見える席に座って、150円のうどんをすすりながら、彼女が来るのを待っていた。

今日で10回目の挑戦だった。


来た。

「みんな、唐揚げ食べたくない?」
僕はそう言って立ち上がる。

「りくと唐揚げ好きすぎやろ!(笑)」
「確かに! 最近ずっと食べてない?(笑)」

彼らの会話は頭のどこにも引っかかることなく、左から右へ、すーーーと流れる。


この時間帯は決まって混んでいる券売機へ走りたい気持ちを抑えて早歩きで向かう。



みさき先輩の後ろに並んだ。

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