みさき先輩 中編

#小説


前編

自分の思惑とは裏腹に列はスムーズに進む。

「どうすれば、目の前に居るこの人と話せる? どんなハプニングなら自然?」なんてことを考えていると、みさき先輩と券売機の間に介在する人は0人になっていた。

せっかく得られたこのチャンスを無駄にしたくない。でも、後ろに並んだだけで話せると思った俺、まだまだ甘いぞ。出直すか。

綺麗に巻かれた後ろ髪を見る。



みさき先輩がこちらを振り返る。
しっかり目が合う。ぱっちり二重で大きい黒目。

財布を持っていない左手に水滴が溜まっていく。

目をしっかり合わせれる人は嘘がない人か、よっぽど自信のある人のどっちかだと思う。もちろん彼女は後者。

(数秒経つ)

ようやく、彼女が口を開く。

「エビ天うどん食べたいんだけど、50円足りないから貸してくない?」

「いいですよっ!」
彼女の口から出た予想だにしない言葉に驚いて、思わず裏声になってしまう。それを聞いて、彼女は少し笑った。

手汗と震えを気づかれないように50円玉を彼女の手のひらにそっと置く。

受け取った彼女は「ありがとう」も何も言わず、50円玉を券売機に入れて、右上の方にある【エビ天ぷらうどん】を押して、券を取って、横にそっとずれる。空いたスペースに進む。

用意していた230円を入れて、【ビック唐揚げ】を押して、券を取る。横の列に並ぼうとすると、彼女がこっちを向いて待っている。

「んー、1年生?」
首を傾げる彼女。

首を縦に2回振る。また裏声になるんじゃないかなと思い、声を出すのが億劫になる。

「今度、お返しで何か奢るから、LINE教えてよ!」

「え、まじっすか! 教えます教えます! 」
と言ってる興奮気味な自分は、心の奥底の誰からも見えないところに隠して、静かにiPhoneを取り出す。「QR、出せばいいですか?」と気持ち低めの声で答える。

「ふるふるしようよ!」
とびっきりの笑顔でiPhoneを横に振る彼女。
あざとさの極みである。

「ふるふるですか?」
予想してない「ふるふるしようよ!」に、また裏声になる。

我慢できず笑ってしまう。
彼女も手を叩きながら笑う。


***


エビ天うどんと唐揚げの小さいカスが乗ったお皿を介して、目の前にはみさき先輩が座っている。

「もう食べたの!?」
笑いながら言う彼女

緊張のあまり勢いよく食べて、口の中には唐揚げがいっぱい。

「君、可愛いね。」

思わずむせそうになるが、我慢する。

飲み込むと、喉がめいいっぱい開く。

「今日の夜、暇? ご馳走するからごはん行こうよ!」

首を縦に振る。テーブル下の右手は握りこぶしの状態で上下に動いた。と同時に、友人の言っていた彼女の噂が脳内で再生される
「付き合っては、貢がせて振ってを繰り返してるって噂の? 付き合っては、貢がせて振ってを繰り返してるって噂の?」

「じゃあ、19時に駐車場ね!」

「......おっけーです!」
「じゃあ、ぼく次ゼミなんで、お先です! 後ほど!」

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