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Detective:City of Angels

『Detective』……とメインタイトルこそ同じだけれど、PortalのではなくVanRyderGamesという会社の全然別のゲーム。BGGを知って色々見て回っていると「あるゲームを好きな人達が好きな別のゲーム」なんて表示があって、そうすると当然のように『Detective』を好きな人は他のミステリゲームを遊んでいるのでこういうものがこちらの目に留まる、というわけ(ちなみにPortalの『Detective』は何とか昨年中に最後までやり、今はもうすぐアークライトから出る『シーズン1 日本語版』を一足先に遊んでいるところ。その辺のことはまた改めてここに書きます)。当然これもPortalの『Detective』や『Chronicles of Crime』同様、シナリオ主体の捜査ゲームで、基本一回クリアすれば二度はできないタイプ……なのだが、「ある意味リプレイ可能」。一体どういうことかはおいおい分かります。

 BGGの紹介を見ていると、ゲームマスター的な人が必要なかなり凝った作りのゲームらしいことは分かるのだけど、現物(シナリオ)を見ないことにはどうにもぴんと来ない。ただ、あちらでは恐ろしく評判がよく、さらに拡張シナリオが次々出ているらしいことから、そのうちどうにかしてプレイできないものかなとは思っていたのだった。しかし本体だけでも結構な値段($89.99)の上にさらにアメリカからの送料もかかるとなると、いまだボードゲーム1個に1万円とか出したことない人間としては躊躇うしかない。
 が、昨年11月くらいからウィッシュリストに入れていたところ、年末が近くなってどんどんストック数が減っていき(クリスマスだから?)、年を越す直前とうとう残り1になったところで我慢できずにポチってしまったのだった。その後長らく売り切れ状態が続き、今でもちょっと復活してはまた消えるような状態なのであれは正しい決断だった(はず)。

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 このゲームにはClassicモード、という本来のモードに加え、ソロ(もしくは全員協力捜査)プレイのスルース(Sleuth 探偵)モード、そしてHead to Headという1対1(もしくは複数の協力)のプレイという三種類の遊び方が用意されている。
 まずはClassicモードを説明すると、これはチゼル(chisel 騙す、というような意味の古い俗語らしい)と呼ばれるゲームマスター1人対刑事役のプレイヤー複数(4人まで)で遊ぶことになる、このゲームの主眼のモード。1940年代のロサンゼルスを舞台に、ロス市警の刑事役となったプレイヤーたちがロサンゼルスのマップ上を移動しつつ、容疑者に質問をして情報を引き出し、時には競争相手である他の刑事の情報を盗み聞き、一番乗りで解決することを目指す。チゼルはゲームマスターではあるのだが、わざわざそう名付けられたのには理由があって、刑事達が一筋縄では解決できないように裁量を働かす余地が残されている(後述)。
 Portalの『Detective』や『Chronicles of Crime』が一部ゲームの進行や解答をデジタルに頼ったところを、このゲームは完全に人力でこなす代わりにゲームマスターを必要としてしまう。当然、ゲームマスターはすべて真相を知った上でなければ“回せ”ないのでシナリオを一度も純粋には楽しめないのでは?という疑問が発生する。で、スルースモードである。
 スルースモードではソロ、もしくは全員一致協力して捜査に当たる。つまりはゲームマスターは不要なのだが、そのために専用の冊子が一冊、そしてシナリオごとに分けられた質問表が用意されている。

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 あるシナリオでどこかの場所を捜索した場合、容疑者Aに証拠Hについて質問した場合……などなどに対する反応/結果が冊子の中に(間違って見てしまわないよう)複数のシナリオのものが全部ごちゃ混ぜに入れられていて、質問票の対応する数字にジャンプすることでゲームブック式にその反応/結果に辿り着くという仕掛けになっている。チゼルをやろうとする人間は(まあたいていゲームのオーナーだろうが)まず一度スルースモードでプレイし、その上で読み残した部分などもチェックしてクラシックモードの準備をし、刑事役を集めてプレイする、という二段構えの遊び方をすることになる。TRPG的と言えるのかもしれない(TRPGをあんまり知らないのだが)。

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 いやでもその冊子と質問票があればそもそもゲームマスターいらなくね?と思う人もいるだろう。そこがこのゲームのもう一つのミソで、実はこのスルースモードでは若干簡略化されてしまうある仕掛けがある。それがMost Useful Response――MURと略されているものだ。これはまあ直訳すると「最も有用な返答」なわけだが、つまり各シナリオ、各容疑者にいろんな質問をしたとき、マーダーミステリーよろしく、犯人ではない容疑者にも色々と事情があり、なかなか素直に一番いい答――MURをくれるわけではないのだ。チゼルが参照するシナリオブック(スルースモードのそれとは別)には容疑者がある質問をされた場合の答が複数、場合によっては4つくらい用意されている。そのうちMURは1つだけ。どれを選んで答えるかは、質問者の質問の仕方とチゼルの裁量にかかっている。クラシックモードでは刑事達は全員レバレッジLeverage(てこ、影響力)と呼ばれる帽子の形をしたトークンを7個持ってスタートする(チゼルも人数×1個持つ)。質問者がレバレッジを使用することを宣言して質問すれば、チゼルはMURを返さなければならない。使用しない場合、チゼルは好きな返答を選んでよいし、自分が持っているレバレッジを使って返答そのものを拒否することもできる(最初からMURを答えてもよい)。とりあえず答が返ってきた場合質問者は「こいつ、まだ本当のことを言ってないな」と思ったら、「チャレンジ」を宣言することができる。もしチゼルが最初からMURを答えていれば「チャレンジ」は失敗となりレバレッジを失うし、もしMURでなかったならチゼルはMURを選び直して返し、逆にレバレッジを渡さなければならない(この会話を手番ではない刑事が盗み聞いたりするシステムもあるのだがそこは省略)。
 スルースモードも一応この「MUR」「チャレンジ」的な要素はあるのだが、まず最初の返答は決まっており(質問票で飛べるのは一箇所なので)、そこで隠し事があるかないか、チャレンジするかどうかの二択をするだけとなっている。クラシックモードには「既にもう他でも似たような情報をこいつは得てるから最初からMURを選んでやろう」といった駆け引きができる柔軟性がある。
 チゼルはゲームマスターでありながら登場人物全員のロールプレイも行ない(まあ、NPCだね)、刑事達の競争を高みから見下ろしつつ、彼らが容易に真相に辿り着かないように誤導――ミスディレクトもできるわけである(全力で騙すのがいいというものでもないと思うが)。
 クラシックモードでのチゼルの対応のために特別に用意されたギミックがシンプルだけどなかなか面白い。

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 チゼルのシナリオブックには容疑者とその質問内容によって決まる返答がいくつか書かれている。MURは常に黒字で、それ以外は赤字。それを見て選んだ返答がもし「3d」ならこのように四角いカード群から中央に「3」と書かれたものを抜き出し、その「d」の部分の返答だけが見えるようケースに入れて質問者に渡す。1枚にはa~d、w~zの最大8つの返答が書かれていて、1シナリオに10枚以上のレスポンスカードが用意されているので100前後に及ぶ返答がこれで処理できるというわけ(ギミックとしては面白いけれど、おかげで日本語シールを貼る作業は結構大変。字も小さいので老眼の身には辛い)。このカードのように赤い字で「Look at E」などと書かれている場合は、ボード上に最初から伏せて置かれているカードEを自分だけ見ろ、というような指示。場合によっては最初にそのカードを見たプレイヤーが証拠を持って行ってしまったりもする。
 そして最終的には決められた日数が経過すると全員解答を提出しなければならない。基本、犯人、凶器、そして動機をすべて正解すれば勝ちである(一部、変則的なシナリオもある)。ソロ――スルースモードではどうするかというと、容疑者、凶器、動機のそれぞれに設定された「数字」を合計して先ほどのシナリオブックのチャプターに飛べば、正解かどうか分かる仕組み。

 シナリオは9つ。星一つの難易度Gumshoeクラス(チュートリアル含む)が3つ、Veteran級が3つ、Hardboild級が3つ(当然段々長くなる)。Gumshoe3つをスルースモードでクリアし、最初の2つは何とか日本語化して仲間を集めチゼルも体験してみた。シナリオとしては星一つだけあってややシンプルではあるが、それでも一応頭を悩ませたり、プレイヤー同士の綱引きもあってゲームとしてよくできている印象。また、会話等の文章が完全にパルプフィクション時代のハードボイルドを意識しており、猥雑な俗語や比喩、ワイズクラック満載でそういう世界が好きな人にはたまらないだろう(理解するのも割と大変だが、日本語に訳そうと思うともっと大変。翻訳者の苦労を思い知る)。
 今のところ尻上がりに面白くなっていて、1人でやる分には多分最後までやると思うのだが、「是非やりたい!」と強く願う人が沢山出てこないと、なかなか残りの日本語化は進まないと思われる。それか、「下手な日本語化しなくてもそのままでいいよ」というレベルの英語力の人を集めるか……ですね。

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