石坂浩二はテレビ界にとって何者だったのか

石坂浩二は、もしかしたら映画に詳しい人にとっては市川崑監督の『犬神家の一族』などで主演を務めた名優というイメージなのかもしれないが、自分にとっては俳優というより『開運!なんでも鑑定団』などに出演していたテレビタレントとしての印象が強い。

鑑定団がお宝の鑑定をしている様子が独特のBGMに乗せて流れる数秒間のダイジェスト映像の中で、鑑定団に混じって時々意見を言っている様子の石坂浩二を記憶している。音声は編集されていたのでどんなコメントをしていたのかはわからないが、石坂浩二は書画骨董にも造詣が深いのだろうか?

石坂浩二にはどこか知的なイメージがある。

私が子供の頃、国民のIQテストをするというコンセプトの特別番組があった。タイトルは覚えていないが古舘一郎が司会だったと思う。これは実際のIQテストで使われる問題を使って、回答者全員のIQを生放送で格付けするという内容だった。この番組の結果によれば、石坂浩二のIQは本当に高かった(数字は忘れてしまったが…)。

一方、いわゆる「おバカタレント」的な人たちはIQが低く出ており、番組が進むにつれ発言が減り、見るからに盛り下がっていった。たしか同じように結果が奮わなかったのだろう野村克也(当時プロ野球の監督だったと思う)が「劣等感養成番組だ」と発言し、会場から拍手が起こるという一幕もあった。

そんな中、答え合わせの映像を見ながら、これはこうだったか、そうそう、ここはこうなんだよね、というような、真っ当な答え合わせらしいコメントを続ける石坂浩二がいた。子供心には「石坂浩二だけ楽しそう」という状況がこの番組の居心地の悪さを一層加速させていた。

このように知的な石坂浩二だが、俳優としての彼の仕事で私の記憶に特に強く残っているのは時代劇『水戸黄門』の水戸黄門役である。

この『水戸黄門』は「石坂浩二の要望により、史実に忠実な水戸黄門」という触れ込みでヒゲのない姿で現れた。それどころか最初の数話はチャンバラも印籠も悪代官もなく、生類憐みの令を出した徳川綱吉に犬の毛皮を贈ったりしていた。ただし助さん格さん(たぶん実在しない)は登場していて、勉強熱心な若者的な立ち位置だった。

あれはなんだったのだろうか。あれはあれでおもしろかったが、歴史に忠実といっても、水戸黄門を見て歴史を学ぼうという人は少ないだろうし、多くの人が水戸黄門に期待する内容とは別のものになっていたことはおそらく間違いない。

石坂浩二の鶴の一声はそんなに影響力のあるものだったのだろうか。それとも大胆なリニューアルをしたいという要望がもともとあって、そのイメージに合う石坂浩二がキャスティングされたのだろうか。

しばらくして水戸黄門はヒゲを生やし、諸国漫遊に出かけることになるのだが、あれは方針変更だったのか、それとももともとその予定で、最初の方はセットアップパートだったのだろうか。

なにもわからない。しかしその後、石坂浩二の水戸黄門はけっこう強く、杖で敵を殴ったりしていた。

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