武蔵野線に揺られながら。第三話
自宅にやっとのことでたどり着き、リュックサックを背中に抱えたままに、玄関の床にたどり着く。熱に侵されてそのまま、眠りに就きそうになるが、悪化してしまうと自分を奮い立たせ、着替えて床に就く。我ながら、久しく風邪なんてひいていなかったもので、この体調不良は大変体に響く。ありがたいことに仕事は1週間の休みをもらうことができたのは、喜ばしいことである。人生の8割が仕事とわかっていても働きたくはない。そんなことはわかりきっている。
一眠りして、お腹を満たそうと、食材を漁る。こんなときは消化の良いものを食べるに尽きる。レトルトのお粥とスポーツドリンクを手にとり、満たす。飲みたくない薬を飲みもう一度眠る。
翌日、目が冷めたのは、朝の5時だった。どうやら、日頃の習慣が染み付いてしまっているらしい。体調も昨日に比べ、だいぶいい。布団に紛れ込みながら、携帯電話を覗き込む。
空っぽの私が携帯電話を手に取りすること、それは、、、、
転職、引っ越し、環境を変える原因となった人の残り香を携帯電話のフォルダから探しては、見惚れて何度も涙をこぼして、何度もため息を深く吐く。ため息というよりも自分を落ち着かせるための深呼吸に近いのかもしれない。もう1年が経つというのにどうして愛しいと感じ、胸を締めつけてくるのだろうか。愚か。
1番愛している人とは、一緒になれないとよく聞くものだが、本当にそうなのかもしれない。彼のためなら、こんなにも大事な自分さえも、捨てることができた。彼に愛されない自分なんてこの世にいらないほどに。
それでも、終わるのだ。どんなに悔やんで足掻こうとも。もう1年が経ってしまったのだが。
彼と出会ったのは大学2年の誕生日の一ヶ月前のことだった。