赤松利一「下級国民A」読了

除染事業などで一儲けする現場の最前線のリアル。初め、文体がスカスカな気がして読みづらかったけど、だんだん中身と相俟って、この疾走感でいいという気がしてきた。これはこういう読み物。
一攫千金を狙う事業主や、現場を闊歩する一筋縄ではいかない人物たちとの丁々発止の渡り合いはおもしろいが、根にあるのはチラ見えする娘への送金だという父親としての姿。ここはチラ見えなだけで、何のためになぜこんな人生を送っているのかに筆を費やさず、ひたすら現場を活写していく。
福島で何があったのかについてのこれはある側面からの現場レポートとして成立している。ふだん目にすることの多い、社会運動系の意識が前面に出たものではないだけにある意味、新鮮だった。だが、「少なくとも」今の赤松さんは、ちゃんとした政治的意識ももった人であるとも思う。(ツイッターなど。)
商売の話をリアルに描くのは宮本輝もそうだというのが、ちらちらと僕の脳裏を途中よぎった。宮本輝は日本がまだ貧しかったころの父親の姿を通してそのリアルを知っている。それでいて本人は生死について見つめきったポエジーを持っている。その両面があるから好きな作家なのだとすると、赤松さんはたぶんにこの世的だ。最後までこの世的だ。そして舞台は再び貧しくなった今の日本だ。
ラストシーンに去っていくさびしい背中の幻影を見た。そこは、「あっ、文学なんだ」と思わせる個所だった。だが、生きて死んでいくということに何を思っているのかはまだよくわからない。小説を読まないとたぶんわからない。

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