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くらやみに馬といる

僕は与那国島で2軒ぐらいしかない食料品店の片隅で、ほんの数冊の本が置いてあったとき、『くらやみに馬といる』という与那国の出版社カディブックスのとても小さな写真入りのエッセイ本を買った。

一応エッセイだが、ほぼ散文詩と言えるような文体で、しかし、まったく難解なところがない。てらっている散文詩ではない、読みやすいエッセイ方向の散文詩だった。

与那国の東半分、テキサスゲートを超えるとそこは、馬と牛が自由に暮らしていて、街灯のひとつもなく、完全な暗闇である。僕はそういうところにテントを張って一夜を過ごした。

その時、時々、暗闇の中で馬の気配がして、そのときに感じた生死についての洞察は瞑想と同じくらい深いものだった。

だから、この本に惹かれたのだが、読んでみると、あの暗闇の一夜に僕が感じたことを余すところなく書いてあって、短編として僕の中で宮本輝の『星々のかなしみ』と並んだほどである。

非常に変わった造本の本である。

著者は無名であり、与那国島以外で本や名前を見たことがない。だから、文学の世界は怖ろしいのだと思う。

だから、先日、僕は京都文学フリマ8ですべてのブースを周ったのだ。

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