アオムシ

 夏の真っ盛りの、とても暑い日だった。
 僕はTシャツに半ズボンという姿で、だらだら汗を流していた。
 あまりに暑いので、部屋の窓はぜんぶ開け放してあった。
 僕は窓に近づいて空を見上げた。
 真っ青な空のとても深い場所で、鮮やかに白い雲がゆっくりと流れていた。
 ふと上腕に違和感を感じた僕は、視線を落とした。
 すると僕の腕に黄緑色をした一匹のアオムシがいた。たくさんの脚をもぞもぞと動かしながら、僕の腕を這い登っている。
 瞬時にいくつかの選択肢が浮かんだ。
 振るい落として踏み潰す。そっとつまんで庭の草の葉の上にでも置いてやる。
 だが、暑さに脱力してしまっていた僕はそのどれをする気力も湧いてこなかった。
 喉が渇いていた。無性にコカ・コーラが飲みたかった。
 だが、ガザへの爆撃のひどさを物語る写真は、毎日FACEBOOKで送られてきている。イスラエル支援企業の商品は買わないと決めた僕の冷蔵庫にコカ・コーラはなかった。
 僕は転倒しないように、ゆっくりとすり足で部屋の真ん中を歩いていった。

ここから先は

9,496字
この記事のみ ¥ 300

もしも心動かされた作品があればサポートをよろしくお願いいたします。いただいたサポートは紙の本の出版、その他の表現活動に有効に活かしていきたいと考えています。