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テクノロジーで実現する医療ROIの最大化

テクノロジーで人々を適切な医療に案内する

これがUbieのミッションです。2017年5月に設立して以来、このミッションの実現に向けて突っ走ってきました。ロケットで月へ行くくらいの気持ちで、Ubieの事業成長に取り組んでいます。

Ubieの事業は「医療のROIを最大化する」ことを念頭において展開してきました。医療のROIとはどういうことなのか?今回は社内向けに語っている、Ubieが提供しようとしている価値についてまとめてみます。

Ubie創業のきっかけとなる「多忙すぎる医療従事者の苦悩」

私が研修医として救急外来をしていた頃、患者さんの顔を見る余裕はありませんでした。診察と並行して問診内容をカルテに記載する必要があったからです。にもかかわらず、待合室は患者さんで溢れかえり、12時間の勤務を終えてからカルテを仕上げて帰る毎日。

そんな日々を過ごしているなかで、患者さんから「もっとこちらを向いて話を聞いてほしい」と言われたこともありました。そのときは、とてもショックでした。自分は必死で仕事をしていたけれど、それでも患者さんにはしっかりと向き合えていなかった。「病気を診ずして、病人を診よ」。臨床をやる中で大切にしようと思っていた患者さん中心の医療は、膨大な事務作業に阻まれて実現できていなかったのです。

私だけでなく、医療現場で働く人々は目の前の患者さんに向き合えず、忙殺されてしまっています。

ではなぜ、医療者がそこまでして働かなければならないのか?それは日本が世界に誇る国民皆保険制度やフリーアクセスを維持するため。この医療保障こそが日本が世界の中で最も健康で長寿な国を実現できている理由なのです。

アメリカなど、無保険の国民がいる国も多い中で、日本では国民皆保険制度により、すべての国民が公的な医療保険の恩恵を受けられます。また、イギリスなど、登録した医療機関を最初に受診しなければならない国も多い中で、日本ではフリーアクセスにより、何の制限も受けずにどこの医療機関でも、どの医師にも自由に診てもらえて治療が受けられます。なぜ日本だけがこのような医療保障を実現できているのかを少し説明します。

日本のドクターは給与が低い?長時間労働と献身が支える国民皆保険制度

当時の私のように、日本のドクターは長時間労働が前提です。ただ、その労働によって得られる給与は、世界の水準に比して高いわけではありません。例えば、アメリカの専門性を持ったドクターの給与は、日本のドクターの約3~4倍でありながら、勤務時間も固定されています。そうなると、同じ医療サービスを提供するにも必要な予算は変わる。

となると、アメリカが日本と同じ医療サービスを提供するためには、医療費の予算を増額する必要があります。ですが、国が医療費にかけられる予算には上限があります。各国での医療費の対GDP比率は約10%前後であり、アメリカだけ30%使うことはできません。したがって溢れた分は国の保険では担保できず自費になります。日本は、医療者の長時間労働と献身が国民皆保険制度を支えてきた、というわけです。

近年、この制度を支えてきた前提が変わり始めています。日本の医師の労働環境への問題は大きくなっており、医療の働き方改革を推進する動きも始まっています。ただ、働き方を変えるにしても、残業代を支払うように制度を変えるにしても、新たな課題に向き合わなければなりません。

まず、単純に労働時間を短くすれば良いかというとそうではありません。医師ひとりあたりが対応できる患者さんの数が限られ、フリーアクセスが成立しなくなるからです。

また、病院経営というのは一般的なイメージよりも利益率は高くなく、2%程度です。残業代等を支払うようになれば、そのまま赤字に転じてしまうような病院も多い。日本の医者の給与が諸外国より少ないとはいえ、すでに日本は医療費に約43兆円を投じており、そのうちの半分は医療従事者の人件費です。足りなくなる分の金額を補填するのは現実的ではありません。

このような現状から、医療サービスをこれまでと変わらないクオリティで提供していくためには、医療従事者の生産性を上げるしかない。医療従事者の有限で貴重な時間は患者さんの結果とは関係ないアナログな事務作業によって吸い取られている。なので、テクノロジーによって10~20%程度の生産性向上は可能だろう……こうしたマクロな観点からの課題と、私が臨床の現場で感じていた課題が重なりました。

医師の”生産性向上”と患者の”早期受診・早期治療”を実現し、医療のROIを最大化する

私は、一人の医療者として「自分をどこに投資すると医療のリターンが最大化できるか?」を考えました。ここでのリターンとは、人々の健康寿命です。

上述のように、国民皆保険制度とフリーアクセスを持続可能にしていくためには、医療の総生産力を向上させるしかなく、そのためには医療者の生産性を向上するしかない。なぜなら医療者の人数✕労働時間は増加することはないからです。

また、人々は天寿を全うして亡くなることももちろんありますが、現行医療で助けられ得た早すぎる死の原因は、単純化すると受診の遅れによる重症化です。

こんな患者さんがいらっしゃいました。40代の女性です。「2年前から血便が出ていたんだけれども、仕事が忙しくて病院に来られなかった。でも、今日は背中が痛すぎて横になれないので病院に来た」と。お話をうかがうだけで、大腸癌の骨転移を疑いました。この患者さんの場合は3ヶ月ほどで亡くなってしまいました。2年前に来ていただいていれば、今もお元気であったかもしれません。

私は、医療者の「生産性向上」と患者の「早期受診・早期治療」を自動問診エンジンの社会実装で解決するのが、医療に対する私というリソースの投資としてベストだと結論付けました。共同代表でエンジニアの久保と2013年より自動問診エンジンの研究をしてきたため、時間あたりのインパクトが最も大きそうでした。

「人と医療のマッチング」により実現する

続いてどのような方法でそれを実現すべきか考えましたが、結論としては株式会社という形態を選択しました。研究やNPO等に比して、ソリューション開発、社会実装、拡大再生産のどのフェーズにおいても柔軟なオプションを持ちます。人材調達/資金調達能力にも優れている。顕在化しているマーケットに対してソリューションを実装し、拡大再生産をして最も多くの人々に価値を届けるには、GoogleやFacebookが証明したように株式会社で挑戦するのがベストな場合が多いように思います。

そして、いかにして実際に医療のROIを最大化していくか。前述のとおり、医療従事者の生産性という変数に対して可能な打ち手をとっていくしかありません。

“医療従事者の生産性向上”

そのテーマに向き合って開発したのが「AI問診ユビー」です。

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臨床経験が豊富な総合診療の医師による問診はまさにアートで、問診からのみでもほとんどのことがわかります。ただ、医師も生身の人間。そのような匠の技を身に付けるために、1年に約3千人、40年働いて約12万人の問診と学習が必要です。

全ての医師がこのレベルに達するには時間がかかりすぎます。膨大なデータを集めてそれをサポートできるようなAIを開発すれば、より効率よく、より早期に、人々を適切な医療に案内できるはず。

それには、膨大なデータが必要です。そこで問診データ収集のため、まずは病院に「AI問診ユビー」を導入してもらうように働きかけていきました。

医療現場の働き方改革を提供価値に不可欠な存在になる

では、どうしたら病院に「AI問診ユビー」を導入してもらえるか?そのためには、医療現場の「働き方改革」への寄与を立証しながら、おすみつきをもらう必要があります。医療機関向けの「AI問診ユビー」は、事務作業の大幅削減につながるサービスとしてセールスしていきました。

「AI問診ユビー」の導入により、患者さんはタブレットを使った症状の入力で診察前の待ち時間を活用し、詳しい症状の内容を事前に伝えられます。専門的な文章に翻訳された問診内容と病名辞書の活用により、医師が電子カルテに記載を行う事務作業や調べものの時間が大幅に削減されます。患者さんが診察室に入ったときにはすでに関連する参考病名の候補が複数表示され、診察もスムーズ。導入された病院では、診察時間内に外来が終了し、医師やスタッフの残業も減る、という実績も出ています

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東京都医師会理事の目々澤先生が院長を務められる目々澤醫院では、導入後に医師の事務作業が削減し、外来の問診時間が約3分の1に短縮する結果も生まれました。また長野中央病院では、「AI問診ユビー」により医師から他職種へのタスク・シフティング(業務移管)が図れ、生産性が高く働きやすい環境の構築に寄与しています。

こうした導入実績の積み重ねから、「AI問診ユビー」への信頼も高まり、推してくださる声も増えていきました。厚生労働省も私たちのサービスを評価し、「医師等の働き方改革」の補助金交付の対象にもなっています。エビデンスを蓄積しながら、一般社団法人日本医療受診支援研究機構の設立に関わるなど、日本の全ての医療機関が「AI問診ユビー」を導入するのが合理的である状態を実現しようとしています。

日本サービス大賞授賞式

(2020年10月には、第3回 日本サービス大賞「厚生労働大臣賞」も受賞しました)

「AI問診ユビー」の普及は問診データを集める手段でもあります。現在、導入されている医療機関数は200以上。集まってくる問診データは月間で3万症例ほどで、これは約10年分の症例数に等しいデータ量です。全国8000の病院へさらに導入を進めていき、より多くのデータが集まる状態を実現します。

Ubieが構想している事業においては、これらはまだ序章にすぎません。データが集まり、賢くなったAIにより、人々をいかに適切な医療に案内するのか。ここからが本番であり、私が、Ubieが本当に実現したいことなのです。

病院・医院経営の視点から地域医療のステークホルダーのROIを最大化する

医療のROIを最大化するために、次に取り組まなければならないのが、地域医療における各ステークホルダーのROIを最大化し、ハッピーにすると同時に地域医療の最適化を図ること。そのために新たにアプローチしていくべきは、全国に10万軒も存在している、地域医療の担い手である「クリニック(診療所)」です。

すべての患者さんがいきなり総合病院に訪れるのは限りある医療資源に照らすと合理的ではなく、まずは「地域のかかりつけ医」たるクリニックで診察を受けるのが役割分担の観点で望ましい。クリニックでの診察に基づき、必要に応じて適切な病院へ紹介するなど、クリニックには地域医療における「ゲートキーパー」とも言える機能が求められます。

地域におけるクリニックと大病院の役割の違い

一方で、個人経営が一般的なクリニックでは、専門分化した医学的情報を網羅するのは困難です。とても全ての分野の最新の医学的情報をキャッチアップし続けられません。そうすると、ゲートキーパーとしてあらゆる種類の患者さんを診なければならない一方で、診察で適切な医療を案内するのが難しい場合も生じます。クリニックの医師をUbieのテクノロジーでエンパワーメントして、患者さんを適切な医療へ案内できるようにしなければなりません。

「AI問診ユビー」をクリニックに導入できれば、クリニックの医師は適切な問診をしやすくなり、クリニックで対応できればクリニックで。クリニックでの治療が難しければ、適切な総合病院を紹介するという、医療のゲートキーパーとしての役割を全うできます。これはクリニックや総合病院のROIという観点でも合理的です。

現状の患者さんは「診てもらうなら大病院のほうが安心」というマインドセットになっています。クリニックがあらゆる種類の患者さんに対応し、医療のゲートキーパーの役割を担うために「AI問診ユビー」を導入し、患者さんを身近なクリニックですぐ診てもらえるようにする。そうすれば、患者さんもかかりつけ医を持つことができ利便性が上がり、待ち時間は短くなり、クリニックは幅広い種類の患者さんに対応できるようになり、患者さんが多く来訪するようになります。

一方で総合病院の経営は、単に患者さんの数が多ければ安定するわけではありません。手術など、病院でしかできない高度な医療の提供に集中するのがリターンは大きい。総合病院で安定した病状の患者さんを毎月診るというのは、地域医療の有限なリソースを鑑みると望ましくなく、クリニックにお任せする方がより良いでしょう。

本来、総合病院がフォーカスすべきは、高度な治療に集中できるよう医師としてのレベルを向上させ、臨床を重ねながら新しい研究に取り組むこと。クリニックが医療のゲートキーパーとしての役割を果たせれば、総合病院も資源をあるべき部分に集中させられるようになり、病院経営も安定化します。

クリニックもエンパワーされて、経営が安定化し、総合病院は高いレベルの治療や研究に集中できるようになる。患者さんは「AI受診相談ユビー」で症状に応じた適切な相談先に適切なタイミングでアクセスする。医療におけるリソースの最適配分を行った結果、患者さんの利便性が高まり、早期発見・早期治療が可能になります

患者さんとの接点ごとに最適な医療機関をつなぐ「三方良し」の連携

こうした患者さん、クリニック、総合病院の間にUbieのソリューションが入り、それぞれをエンパワーメントすれば、より適切な医療への案内しやすくなるはず。そのためには、治療するまでの患者さんの「行動」「思考」「感情」などのプロセスである「ペイシェント・ジャーニー」を捉え、接点ごとに適切な医療への案内をし、地域医療の全てのステークホルダーにとってミッションと経営の両方に資する価値を提供し、happyな連携を実現することが肝要です。

AfterUbie_地域医療連携

患者さんにとっては「早期受診・早期発見・早期治療」が、診療所にとっては「最新の知見が常に使える状態となり、患者に選ばれるかかりつけ医になること」が、病院にとっては「業務効率化と高度治療に専念できる環境」が提供されている。こうした状態こそが、国内における医療のROIの最大化をもたらすのです。

グローバルに対して世界に誇る日本の医療を輸出し、医療のリターンを最大化する

先述の通り、医療に投資できる金額には上限があります。それはどの国でも変わりません。限られた投資のなかでリターンを最大化するためには、医療従事者の生産性を高め、ステークホルダーのROIを向上させなければならない。

グローバルを見ると、日本の医療はフェーズが進んでいます。医療については大きく3つのフェーズがあると考えていて、それぞれのフェーズにおいて人々の主な死因や、医療提供体制が変わってきます。表にしてみると、下記のようになります。

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日本はフェーズ3よりもわずかに前進しており、フェーズ3.5にいると考えています。国民皆保険制度もあり、老衰による死亡率が年々増加している。ただ、世界的に見ても医療が発達し、医療へのアクセスが極めて良い本邦においても、人々を適切な医療に案内しきれているとは言えません。

私は、フェーズ3.5に到達した日本で、医療ROIの最大化が実現できなければ、世界の医療のフェーズを押し上げるのは困難だと考えています。ほとんどの方が老衰で亡くなる、フェーズ4の世界。そんな世界を実現するためにはUbieが必要不可欠です。

地球上に医療に無関係な人間はいません。Ubieが提供するソリューションは、必然的に世界中の人が潜在的なユーザーになります。当然、グローバル展開は視野に入れてきました。2020年10月にシンガポール法人を設立し、現地でのPMFに取り組んでいます。2021年前半を目処に、商品化が可能なサービスの完成を目指しています。

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シンガポールにとどまらず、アジア・パシフィックの諸国では地理的・文化的な背景から日本に似た課題を抱えています。こうした展開がしやすい地域から始め、ゆくゆくは世界中でUbieのサービスを広めて、日本医療の質の高さを届けていきたいと考えています。

まずは、アメリカ。そして、アフリカ、インド。国によっては、BtoGで政府に直接アプローチして、一緒に医療提供体制を構築する、BtoG SaaSのようなアプローチも考えうるでしょう。2023年までに、世界でなくてはならないオープンな医療プラットフォームとなり、ミッションである「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」ことを達成し、世界規模で医療のROIの最大化に向けて挑戦していきます。

-----ご案内-----

Ubie で働くことに興味がある方は、Ubie Dev採用サイト に詳しい情報を掲載していますのでご覧ください。


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