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阿部酒造の研修生システムとは?

阿部酒造の研修生システムとは?なんでそんなことやっているの?

阿部酒造では最近人材育成の部分でご質問をいただくことが増えてきました。

阿部酒造の研修生システム

阿部酒造では採用を正社員と研修生と分けて採用試験を行なっています。
研修生は1-3年間酒造りを蔵のみんなと一緒に行い、研修後は自分の蔵を立
ち上げていきます。

▼阿部酒造の採用ページ

そもそもなんでそんなことやっているか、をちょこちょこ会う方には話をしていますが、しっかりと文字でまとめたいと思います。

酒蔵の数No.1であり、1人あたりの清酒の飲酒人口No.1の土地『新潟県』

 国税庁の発表によると令和3年度成人1人当たりにおける日本酒(清酒)の都道府県別消費量のランキングを見ると
1位 新潟県 8.3L
2位 秋田県 7.2L
3位 山形県 6.3L
となっています。ちなみに全国平均は3.9Lです。新潟県の1人あたりの消費量は、全国平均の2倍以上です。(なお、アルコール全体の消費量に占める日本酒の割合を見てみると、全国平均では1年間に74.3L消費するうち、日本酒は3.9Lで、アルコール消費全体の5%に留まっています。一方、新潟県では、アルコール全体の1人あたりの消費量は83Lで、そのうち8.3Lが日本酒です。つまり全体の10%を日本酒が占めています。これもまた全国平均の倍です。)

このように、新潟県ではいかに多くの人が日本酒を飲んでいるかが分かると思います。


では、なぜこのようなことが起きているのでしょうか。以下は私の考察です。それは酒蔵の数の多さからくる日本酒の関係人口の多さが大きく影響しているのではないかと考えます。

新潟県全体で90の酒蔵があります。しかも一部のエリアに固まっているわけではなく、県全域にわたって様々な場所に酒蔵があります。このような環境では、

  • どこのエリアに行っても「自慢できる」日本酒がある。

  • 近くに酒蔵があるため、地酒を贈り物などに使うことが多い。

  • 親戚や身内に酒蔵で働いている人が多い。

例えば、酒蔵では瓶洗いや出荷、直売所や米作りなど様々な仕事があり、雇用を創出しやすいです。「親戚の〇〇が昔酒蔵で働いていた」「おじいちゃんが季節ごとに▲▲の蔵で働いていた」「親戚のおばちゃんが酒蔵の直売所で働いていた」などの話が新潟ではよく聞かれます。

このような環境では、盆暮れや正月に親戚が集まる機会に「当たり前に」日本酒があったのではないかと思います。こうした文化が、新潟県の1人あたりの日本酒消費量を増やす一因になっているのではないかと思います。

つまり、他のエリアでも酒蔵が増えれば、日本酒に関わる人口が増え、1人あたりの飲酒量も自然に増えるのではないかと考えます。

業界の人間として、また規模の小さな酒蔵として、業界に貢献できることは何かと考えたとき、大量生産してマスマーケットに届けることは難しいですが、人材を育てて業界にプレイヤーを生み出すことは小規模の蔵でもできるのではないかと思いました。

そこで、酒蔵を立ち上げたい人たちがしっかりと蔵を立ち上げられるようにサポートすることが、僕のできることだと考えました。

研修生等が生まれた背景


前項で色々と述べましたが、最初から人を育てたいと考えていたわけではありません。僕が戻った2014-2015醸造年度は、父と蔵の近くに住むおじいちゃんと僕の3人での酒造りでした。人を育てる余裕はありませんでしたが、人手は本当に欲しかったです。

そんな中、2017-2018BYに急に3人の若者が蔵に入ることになりました。
1人目は元wakazeの製造責任者の今井
 彼とは秋田の蔵での研修時に意気投合し、wakazeを立ち上げるときには酒造りだけではなく様々なことをやる必要があり、製造から出荷まで全てを行う当時の阿部酒造で色々経験したいということで阿部酒造に来ることになりました。

2人目はLIBROM の製造責任者の穴見
 これは僕の※1滝野川研修所の同期からの紹介。阿部さんのところって人足りてなかったりしませんか?修行して将来は蔵をやりたい人らしいのですが、どうですか?から始まり、入社に至ります
 ※1 滝野川研修所…東京王子にある滝野川赤レンガ倉庫で行われていたの国税庁の醸造者初心者コースの研修場所。今は行われていない。

3人目は現在映像を撮影しているトシ
 →彼は当時新潟大学の学生さんで無類の日本酒好き。好きが高じて酒を造りたい、そういうことを受け入れている蔵はないかと、FARM8の樺沢さんに話が入る。そこで樺沢さんがうちの蔵の話をしてくれたらしい。因みに樺沢さんは前職時代から繋がりがあった。

と自分の社会人になってからの行動と結果がこのタイミングで人のご縁で繋がった。
今まで若者が手伝いに来るなんて微塵も考えていなかったタイミングで同時に3人の自分と同世代の若者が入社するのは本当に運が良かった。自分の行動力に感謝。
 ※余談ですが、トシはうちで今井さんと出会って映像に興味が出て今の仕事につながっているので、縁とは面白い。

そこで酒造りを教えるという経験をするが、だいたいこれが1回で終わるもの。
でも当社は違ったんです。せっかく若者が来てくれて蔵に活気も出てきたし、若い人間は何しろ百人力。若いだけで、おじいちゃん等よりは明らかに仕事の質とスピード感が上がる。だから彼らがいる間に同じように若い仲間を増やしたいなと思ったんです。
すぐさま募集ページを彼らの紹介ページの作成と共に作成したところ、そこから経験者1人、未経験者2人。これでまた一から教える体験を繰り返すわけです。そしてその後もページを更新し続け、気づいたらhaccobaの太亮も入社。

試し桶は「タメ」って呼ぶから!タメはこれね!

試し桶 通称:タメ

発酵中の酒を混ぜるのは「櫂棒」で「カイ」って呼ぶから!

櫂棒 通称:カイ

こういうことを何回繰り返したことかわからないですが、繰り返せば当然人を育てるノウハウも蓄積されてくるわけです。

この経験から、酒蔵の規模に関わらず人を育てることができると実感しました。業界の一員として、自分の経験を役立てたいと思い、新潟の状況や自分の考察を踏まえ、酒蔵を立ち上げたいという強い意志のある人を育てることが自分にできることだと考えるようになり、現在に至ります。

実際に、元wakazeの今井氏、LIBROMの穴見氏、haccobaの佐藤氏の3人がすでに蔵を立ち上げ、それぞれの地域で活動をしています。彼らの酒が美味しいと聞くと、自分たちの酒が褒められるのとは違った喜びを感じます。

また、少しずつ設備投資もできるようになり、夏場でも研修生が酒造りをできるような場所を用意し、2022年には「その他の醸造酒」「雑酒」の免許も取得しました。これにより、研修生が卒業する前に自分たちの造るお酒を阿部酒造で製造し、実験することができるようになりました。

これで、1本の仕込みを行う際の原材料コストや利益を予測しやすくなります。これにより、研修生が蔵を立ち上げる際の銀行融資の際にも役立ちます。例えば、「酒造りは学びましたが、『その他の醸造酒』『雑酒』は造ったことも販売したこともありません」と言われるよりも、「酒造りも学び、試しに1本自分で製造し販売まで行いました。1回の仕込で〇〇円の利益が見込まれるので、×××万円の設備投資の返済は▲▲年で終えられると思います」とプレゼンする方が、銀行の担当者も融資しやすいと思います。少なくとも僕が銀行の担当者なら後者のプレゼンの方が響きます。

このようにして、人を育てる体制が徐々に整ってきており、2025年には久しぶりに卒業生が蔵を立ち上げる予定です。今後、卒業生が増えたら、みんなでイベントを開催するのも楽しそうだなと思っています。

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