図書館で神様に出会った

年が明けたある日。

返却期限が過ぎていた本を返しに図書館にいった。ついでに面白そうな本はないかと見ていた時、一人の老婦人が本を二冊抱え棚から棚へと顔を寄せながら何か探しているような様子に気が付いた。その方はしばらく棚を眺めていたけど、ふと隣に立っている僕に話しかけてきた。
「すみませんけど、この本を元の棚に戻して頂けませんか?目が見えずらくてどこに戻せばいいのか分からないんですよ」
「ええ、お安い御用です」

彼女が差し出した本を見ると、一冊は子供向けのファンタジー物語。もう一冊は最近話題のSFミステリ。ふーむ、かなりの遣い手とみた。
そう思いながら、著者別に並んだ元の棚に戻す。

その後一階下の百均ショップに寄ってから帰ろうと、来たエレベーターに乗り込むと、先ほどのご婦人に遭遇。軽く会釈をしながら乗り込むと、彼女が話しかけてきた。

「目が見えないのに読書なんて可笑しいでしょ?」
「いえ」
「本当に最近は見えづらくなってしまって、好きな本も一日で3,4ページぐらいしか読めないんですよ。最初から最後までなんてとても無理だから適当なところを3ページくらい読んで、あとは想像するの。この人たちはどんな事件に出くわしてどんな恋をして、どんなふうにおしゃべりするのかしらってね」

想像する!
そんな読書があるのか、と一瞬返す言葉が出てこない。遣い手どころじゃない、達人だ。
不読の読書、もはや神の領域だ。

「しょっちゅう図書館に行ってるので、またお手伝いしますので声をかけて下さい」
僕は少し震えながらようやくそう応えた。
「ええ、ありがとうございます。でもこの次まで覚えていられるかしら、ふふふ」
そう言って少し笑いながら神様はエレベーターを降りていった。

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