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テクノロジーの力で社会課題を解決する、「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)」レポート

8月11日、日本ディープラーニング協会が主催する「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)」の本選が開催されました。

DCONとは、高専生が日々学んでいるものづくりの技術とディープラーニングを組み合わせ、社会課題解決に繋がるビジネスプランとプロダクトをつくり、その内容を競うコンテストです。ベンチャーキャピタリストが評価した企業評価額が最も大きいチームが優勝になり、技術力だけではなく「事業性」が重視されることが最大の特徴です。

本選出場チームは、経営者やコンサルタントなど事業経験豊富なメンターのサポートを受けることができます。弊社代表の岡田は、鳥羽商船高等専門学校ezaki-labチームに約半年にわたって伴走してきました。

テクノロジーを使って社会課題を解決するために行動し続ける高専生はまさに「テクノプレナー」。そんなテクプレな高専生の皆さんは、DCONを通して何を得たのか?彼らに伴走してきた江崎先生と岡田は何を感じていたのか?、取材しました。

苦境にある観光業の現状をテクノロジーの力で逆転したい、そんな思いで生まれた「とば海鮮丼きっぷ」

社長としてチームをリードした釜谷さん、MLエンジニアを担当した高橋さん、カメラなどIoTデバイスを担当した辻さんの3名に、ezaki-labチームを代表してお話しを伺いました。

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鳥羽商船高等専門学校ezaki-labチームの皆さん。写真中央が釜谷さん、左端が高橋さん、右後段2番目が辻さん。

ーーDCONに参加することになったきっかけを教えてください。

釜谷:教官から声をかけられたのがきっかけです。私は自分の技術力に自信がないので、どうやったらチームに貢献できるだろう?という不安を抱えた中で参加を決めました。

高橋:元々は先輩がMLエンジニアを担当していたのですが、その先輩が別のプロジェクトで多忙になったことがきっかけで、自分がMLエンジニアとして参加することになりました。実は、このプロジェクトに参加するまではディープラーニングに触れたことがありませんでした。未知の領域だったので不安はありましたが、「やるしかない」という気持ちで参加を決めました。

辻:実は、僕は最初はサポートメンバーとしてこのプロジェクトに参加しました。本メンバーとしてエントリーされていなかったことに対して悔しい気持ちもあり、「自分にしかできないことは何か?」考えました。自分以外のメンバーはソフト面に強みが集中している人が多いことに気づき、自分はハード面を担当することにしました。

ーー皆さんは、地元鳥羽の観光を応援する「とば海鮮丼きっぷ」という作品を発表しています。なぜ、観光というテーマを選んだのでしょうか?

釜谷:鳥羽市の市役所や観光協会の方々の話しを聞いたことがきっかけです。話しを聞くと、現在把握できている観光客数は各観光スポットでカウントされた数の合算であるため、正確な人数は把握できていないことが分かりました。また、観光客の具体的な足取りもわかっておらず、そうした事実情報を把握することが、観光を活性化する糸口になるのではと思いました。

この観光というテーマを決めたのは、新型コロナウイルスの流行拡大の前でした。実は、岡田さんから「新型コロナウイルスの影響で、観光業は大打撃を受けている。観光をテーマした作品は評価額がつきづらいと思うが、本当にこのテーマでやるのか?」と聞かれたことがあります。

ですが、その時にはもう観光業をテーマに頑張りたいという気持ちが固まっていました。コロナによって観光が打撃を受けていることは知っていましたが、実際に街の人に話しを聞いてみるとその影響は自分たちが思っているよりもずっと大きかったんです。大変な状況だからこそ考えがいがあると思ったし、むしろ、DCONをつかって状況を逆転できたら最高じゃないか?と思いました。

そうしてできたコンセプトが、「三密を避けた旅行を支援する」「とば海鮮丼きっぷ」でした。

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「とば海鮮丼きっぷ」プレゼンテーション動画はこちらから視聴できます
https://youtu.be/1Y1-gj8ckyo

まずはやってみる。うまくいかなければ、また別の方法を考えれば良い

ーープロジェクトの過程で一番印象深かった出来事を教えてください。

辻:モデルの有効性を確かめるために、相差町でトライアルを実施させてもらいました。

カメラの設置は自分で行ったのですが、その時ある店舗の方に「このカメラはいつまでつけるの?自分がずっとカメラに見られている感じがして、気になってしまって」と言われたことがあります。そこで、顔の画像は特徴量を抽出したあとはすぐに破棄をしていることを説明したり、カメラの角度を調整したりしました。

カメラをつけることで不安を感じる人がいることに驚きました。これは、実際に自分でお店を回らないと分からないことでした。

高橋:ディープラーニングをに触れるのが初めてだったので、基礎知識を身につけるまでが大変でしたが、岡田さんやABEJAのエンジニアの大田黒さんに助けてもらいながら勉強していきました。

苦労の末モデルをつくり、実際にトライアルをスタートして発生したのがマスク問題です。観光客の人数や属性をうまく予測できず、その原因を追求したところ、新型コロナウイルスの影響でマスクをして歩いている人がほとんどであることが原因であることが分かりました。最初の学習データはマスクをしていない人のデータだったので、マスクをつけた顔がうまく検出できなかったんです。

最初は「まじか」「どうしよう」という気持ちだったのですが、岡田さんに相談してABEJA Platformを使って、600枚のマスク顔を学習させました。データは学校の人に協力をしてもらって集めて、枚数が足りない分は画像反転などによって補いました。

ーーDCONを通して発見したことや気づいたことがあれば教えてください。

辻:これまで僕は、システムを作り上げて技術が評価されるコンテストにしか参加したことがありませんでした。DCONは、技術だけではなくビジネスプランとしてどうなのかが見られるので、システムを作っているだけでは分からないことを知ることができました。

事業計画を釜谷さんが苦労してつくっているのを見たときに、「システム開発にはこんなにお金がかかるんだ」ということに気づきました。利用してくれる人がいるから、自分がシステムがつくることができるということを実感したんです。

釜谷:事業計画をつくるために、沢山のことを初めて考えました。事業が成長したら、オフィスのお金はどうするのか?人はどのタイミングで雇うのか?その場合は人件費はいくらになるのか?など。大変でしたが、ビジネスのしんどさを知ることができたのは良かったです。

辻君が言ってくれたみたいに、DCONはシステムだけではなく、売れるのかどうかという目線で最終的にバリュエーションが決まります。私たちの作品は、最終的に1億円のバリュエーションと、3000万円の出資額がつきました。

この3000万円という出資額は、事業計画の最初の1年分とぴったり同じ金額でした。単純に嬉しい気持ちだけではなく、「本当に、ビジネスをできるのかもしれない」とビジネスを身近に感じる気持ちが湧き上がりました。

「とば海鮮丼きっぷ」をすぐに実現できるわけではありませんが、まずは観光客の分析画面の提供を、トライアルにも協力してくれた相差町からスタートする予定です。将来的には鳥羽駅にもカメラを設置できると、できることがぐんと広がると思っています。

やりたいことは、コロナで減った観光客をまた増やしていくことです。このやり方で、本当に観光客を増やすことができるのかは、やってみないと分かりません。やってみてうまくいったらそれで良いし、うまくいかなければ他の観光客が増える方法を考えれば良い。まずは、小さくでも一歩を踏み出してみます。

行動して初めて、技術を世の中の役に立てることができる

ezaki-labを立ち上げた、鳥羽商船高等専門学校の江崎修央教授にお話しを伺いました。

ーー今回なぜ、DCONへの参加を学生のみなさんに勧めたのですか?

江崎:私は、学生に対して学外のコンテストへの参加を積極的に促しています。教員になって初めての卒業生を送り出したときに、「もっと、社会で自立して生きる力を高めてから卒業して欲しかった」と思ったことがきっかけです。

意欲をもって学習をするためには、「何のためにやるのか」を持つことが重要です。そして、そうした目的意識・ビジョンは、誰かに実際に使ってもらったり、感謝してもらう経験から育まれます。鳥羽商船では、こうしたPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)に取り組むために、3年生からはPBLを科目として組み込んでいます。

ディープラーニングはこれからの伸びてゆく技術ですし、高専でも取り扱っています。学外のコンテストに参加する機会のひとつとして、DCONへの参加を勧めました。

ーーDCONに参加して、学生のみなさんに何か変化はありましたか?

江崎:15年間様々なコンテストに学生を送り出してきましたが、これまで参加したコンテストの中で、最も学生が成長したのではないかと思っています。

岡田さんのように実際にビジネスの第一線で活躍している人にメンターになってもらえて、本当に良かった。これまで参加した他のコンテストでもメンターがつくことはありましたが、ここまで丁寧に伴走してもらえることはありませんでした。

1番変わったと思うのは、「自立心」です。プロジェクトをやりきる意思と覚悟が、最初とは比べものにならないくらい成長しました。

自立心は、自分たちで行動し、決断する中で育まれていきます。今回のプロジェクトでは、トライアルとして相差町に協力をいただきました。何人もの人に、カメラを置いてもらえるように交渉をし、協力を得る。このプロセスの中で「これは、自分たちの責任でやりきらなくてはいけないことなんだ」という実感が徐々に湧いてきたようです。

行動して初めて、技術を世の中の役に立てることができるということを、学生のうちに実感できたのはとても大きかったのではないでしょうか。

アントレプレナーとして、挑戦する次世代を支援し続けたい

ezaki-labチームにメンターとして伴走してきた、弊社代表岡田に話しを聞きました。

ーーメンターとして、ezaki-labの皆さんと伴走してどうでしたか?

岡田:彼らの非線形の成長を目の当たりにして、刺激をもらいました。あと、彼らの最終評価額、1億円のバリュエーションと3000万円の出資額は、私が起業したときよりも高いな、負けたな、と率直に思いました(笑)。

私は23歳でABEJAを創業しましたが、ビジネスの世界について教えてくれるメンター的存在にもっと早く出会えていれば良かったと思います。RPGゲームに例えると、「仙人」に会うと急にゲームが進むことがありますよね。それと同じで、キーマンとの出会いが事業を前にグッと進めるターニングポイントになります。

私はまだまだ仙人にはなれていませんが、それでも「学生の皆さんにとって仙人的な存在になれると良いな」と思いながら関わっていました。

ーーezaki-labの皆さんに、今後に向けたメッセージがあればお願いします

岡田:新型コロナウイルス感染症流行の只中での第1回DCON開催となりました。実行委員長の松尾先生もおっしゃっていましたが、混乱の時代こそ新しいものが生まれやすいと言えます。

メンタリングの中で印象的な出来事として、私からezaki-labの皆さんに「新型コロナウイルスの影響で観光業が大打撃を受けている中、本当に観光をテーマにしてDCONに出るのか?」と聞いたことがあります。客観的にみて、観光業をテーマにしたビジネスプランにバリュエーションがつきづらい状況の中、本当にやるのか彼らの意思を確認したかったんです。答えは、「それでも、新型コロナウイルスで観光業が苦戦している状況だからこそできることをやりたい」というものでした。

事業はHARD THINGSの連続ですが、最後に大事になるのは信念です。彼らの強い気持ちがあったからこそ、観光業をテーマにしたこのビジネスプランを形にすることに全員で夢中になれたのだ思います。

AI、ディープラーニングの市場は、まだまだこれからみんなで大きくしていくフェーズです。ぜひ、飛び込んでいただき、まずは行動をして欲しいです。私にできる支援があれば、いつでも声をかけてください。

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取材・文:高橋 真寿美

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