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ぷちえっち・ぶちえっち30 函館ナンパ大作戦



  この連載はちょっと笑えるちょっとエッチなエッセイです。今回は「ぷちえっち」編。ちょっとだけエッチなお話です。


僕は高校生の時、北海道の函館にいた。全寮制の男子校であった。


 当然のことだが、学校の中では、右を向いても、左を見ても、男だらけであった。教師も男ばっかりである。さらに、学校が終わって寮に帰っても、男、男、男である。


 学校や寮の中で、女性は売店か食堂のおばちゃんだけであった。売店に30代のわりと美人の女性が一人いたが、校内では大人気で、彼女見たさにパンがあっという間に売り切れる、という飢餓状態であった。


 思春期まっただ中で、女性に興味津々の僕たちにとっては、まことに厳しい環境下だった。極寒の南極か、はたまた灼熱(しゃくねつ)のサハラ砂漠か、といった感じである。


 進学校だったので、土曜日も授業があり、休みは日曜日のみだった。


 そこで毎週、僕たちは函館の街に「ナンパ」に行くのである。寮は4人部屋で、僕は同じ部屋の久保寺くん、伊庭くんの3人で毎週のようにちんちん電車に乗って街へと繰り出した。


 狙うのは20歳前後の女子大生のおねえさまだ。函館は言わずと知れた観光地なので、休みの日にはたくさんの観光客が訪れる。童貞だった僕たちは、


「あら、かわいいわね」。
「おねえさんが教えてあ・げ・る。うっふん。」


という展開を夢に描いていたのであった。


 大体、観光客の多い五稜郭へと行くことが多かった。もういても立ってもいられないので、朝の9時くらいには現地へと着いていた。この時間は観光客もまばらである。


 丸一日ナンパに費やす覚悟なので、この時間はまだ余裕である。じっくり品定めをして、とびきりかわいいグループの子を引っかけよう、などと夢みたいなことを考えている。


 観光コースとなっている道の脇の芝生に陣取って、通り過ぎる女子大生を待つ。


「おっ、あれはどうだ!」
「うーん、いまいちかわいくない」
「あっ、じゃああの子たちは?」
「右端の子がちょっとなあ」。


などと行っている間にどんどん時間ばかりが過ぎていく。3人とも、声をかけて断られるのが恥ずかしいのである。


「おい、久保寺くんいけよ」。
「伊庭ちゃんがいけばいいじゃん」。


などと押しつけ合っているうちに、あっという間に昼間になってしまう。


「このままじゃいつもと同じじゃないか!」


と焦りを感じながら、芝生でハンバーガーを食べながらの作戦会議である。


その時、伊庭ちゃんがナイスなアイデアを思いついた。


名付けて「フリスビー作戦」である。


公園の売店でフリスビーを買って、3人で芝生の上でやる。かわいい子のグループが通ったら、わざとフリスビーを外して、女の子たちの前に落とす。拾ってくれたところで、


「あっ、すみません。ありがとうございます」。


と一人がお礼をいい、もう一人が


「どこからいらっしゃったんですか」。


と話を展開し、最後の一人が、


「僕たち地元なんで、よかったら案内しましょうか」。


とたたみかける。ノルマンディー上陸作戦もかくや、というぐらいの完璧な作戦である。


「流れが自然じゃね」。


「さわやかな感じじゃね」。


「いいね、いいね」。 


 となって、僕たちは作戦を遂行した。


 ところが、全然うまくいかないのである。


 まず、なかなか狙い通り女の子のグループの前に落ちない。たまに、これはいい場所にいったんじゃね、と思うと、小学生ぐらいの男の子が走ってさっと拾って届けてくれたりする。

何拾っちゃってんだよ!

と心の中で叫びながら、

「ありがとねー」

と笑顔で受け取る。

3時間ほど頑張ったところで、我々は作戦撤退を余儀なくされたのであった。


 時刻はもう4時を回った。もうかわいい子、などという目標は捨て、なんでもいいから女の子たちに声をかけることにする。誰が声をかけるか、はじゃんけんで決める。という背水の陣を敷かざるを得なくなっているのである。


 「おい、あれ行こうぜ」。


 じゃんけんで負けた久保寺くんが、女の子たちの元へ近づいていく。僕と伊庭ちゃんがはらはらして見ていると、久保寺くんは、


「すみません、今何時ですか」。

と聞いた。
「5時です」。


女の子の一人が答えると、


「あっ、ありがとうございます」。

と言ってそそくさと戻ってきてしまった。


「時間だけ聞いてどうするんだよ!」


僕たちが怒ると、久保寺くんは


「ごめん、ごめん」と頭をかくのであった。


そして日は暮れ、観光客の姿もまばらになる。


「帰るか」。
「そうだな」。


今日もダメであった。僕たちは重い足を引きずって、電車で帰路についた。


その時である。僕たちのすぐそばに、一人わりとかわいい子がつり革につかまって立っていたのだ。 


このとき、いつもはおとなしめの伊庭ちゃんが珍しく燃えた。さっとその子に近づくと、


「すみません、どこの高校ですか」。

と聞いたのだ。 


すると、女の子は伊庭ちゃんのことを鋭い目つきでじろりと見て、


「谷」。 

と一言答えてあっちを向いた。


谷、は大谷高校のことである。ヤンキーのおにいさん、おねえさんが集う、とってもお茶目な学校だ。とても伊庭ちゃんがたちうちできる相手ではない。


 伊庭ちゃんはすごすごと引き下がった。


 こうして僕たちは、青春まっただ中の貴重な日々を、ひたすら浪費し続けたのであった。


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