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ぷちえっち・ぶちえっち31 中国人女性に恋して

 この連載はちょっとエッチでちょっと笑える話のエッセイです。今回は「ぷちえっち」編。ちょっとエッチなお話です。 


 今回の話は僕の友人の体験談である。友人になったつもりで、友人は「僕」という表現で書く。


 今から15年前のことである。


 僕は先輩に連れられて、埼玉県さいたま市の中国人パブに足を踏み入れた。日本人のキャバクラは行くが、中国人の店は初めてである。内装はけっこうシックで上品な感じで、ちょっとドキドキする。


  「お待たせしました。絢香さんです」。


 黒服のボーイに案内されて僕の隣に座ったのが、絢香だった。

年は22歳。僕が抱いている中国人とはまったくイメージが違う子で、目を奪われた。


 顔が小さく、しっかりした太めの眉の下に黒目がちの目、目力が強い。僕を射貫くように見た。やや褐色の肌の色が、しなやかで細めの体にぴったりで、ネコ科の動物を思わせた。


 話してみると、何か僕を警戒しているようなぎこちなさがあった。客商売になれていない感じが逆に新鮮だった。僕は正直、一目で彼女が気に入った。 


 何度か通ったが、なかなか彼女は心を開いてくれなかった。4回目に言ったときに、もう内容は忘れたが、僕がくだらない冗談をいったのが彼女のツボにはまったようで、初めて声を上げて笑ってくれた。

いつもクールな彼女が、笑うとまるで10歳の子どものように見えた。


 彼女の本名は紅花(ユーチェン)といった。僕はすっかり彼女に参ってしまい、足しげく通った。

何度も会っているうちに、紅花はとても純粋な子だ、というのがわかった。

紅花は技能実習生として日本に来たものの、勤め先が横暴でひどいところで、今の店のママのところに身を寄せている、ということだった。 


 そのうち、店の外でもデートするようになった。5回目のデートの時である。僕たちは車を走らせて、東京湾まで海を見に行った。


 埠頭には人影はなかった。夜が明けようとしていた。ほんの少しだけ藍色になった空が美しかった。

僕は無言で紅花を抱きしめた。紅花は僕の目をじっと見た後で、僕に体を委ねた。僕たちは愛し合った。


 僕と彼女は20歳近く年が離れていた。こんなおじさんを彼女がどうして好きになってくれたのか、いまだによくわからない。

でも間違いなく、僕は紅花が愛おしくてたまらなかった。


 それからしばらくして事態は急変する。


 紅花がオーバーステイの不法滞在で検挙されたのだ。紅花の身柄は長崎県の大村市にある入国管理所に拘束された。

僕はもちろん面会にいった。


「ごめんね、ごめんね」。 


紅花は泣いた。


「紅花は何も悪くない。大丈夫だよ」。僕は慰めた。


 結局、紅花は中国へと送還された。


 僕は上海へと飛んだ。紅花に会うためだ。なんとしても紅花に会いたかった。


 上海の浦東国際空港に到着すると、紅花が迎えに来ていた。


 「ケンジ!」。


 紅花は僕の姿を見つけると、びっくりするぐらいの大声で叫んだ。


 「紅花!」。


 僕も大声で呼んだ。二人は強く抱き合った。


 それから何日か上海に滞在した後、僕は紅花の家に結婚のあいさつに行くことになった。上海からバスで8時間。2回乗り換えでようやく紅花の住む町に着く。


 紅花のふるさとは、田んぼ、田んぼ、田んぼ、であった。店などほとんど見当たらない。カエルの鳴き声がうるさいぐらいに響いていた。

家は平屋の木造で、まるで僕が40年前に遊びに行った鹿児島のおじいちゃんの家のようだった。


 両親は僕を暖かく迎えてくれた。結婚の承諾も得た。僕は数日間彼女の家で過ごした後、日本に帰国した。


 それから運命は暗転した。


 僕は、会社でのくだらない派閥争いに巻き込まれてしまい、すったもんだがあった揚げ句に、退職せざるをえなくなった。紅花は、


 「無職でもいい。うちで面倒みるから中国に来て欲しい」。


 と言ってくれたが、女の子に養われるわけにはいかない。

必死で次の職を探している時に、間が悪いことに携帯を紛失した。紅花の連絡先がわからなくなってしまった。

前に勤めている店にも行ってみたが、辞めてから後は知らない、という。焦燥に駆られながら、何か月かがあっという間に過ぎた。


 この間、僕は両親や親戚に、中国人女性との結婚について強硬に反対されていた。僕はなんとしても押し切るつもりだったが、連絡が途絶えて時間がたつにつれて、その決心が少しずつ揺らいできた。


 結果、そのまま二人は連絡も無く別れてしまった。その後の消息もわからない。


 今僕は別の人と結婚して、子どもにも恵まれた。

しかし、時折、初めて出会った時のあの紅花の射抜くような目が浮かんでくるのである。

今幸せだといいけど。とふと思い出すのだ。


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