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コロナが迫る企業の変革

新型コロナウイルスの感染拡大は、企業に経営理念の変革を迫っている。これまでの株主を最重視する経営から、従業員や社会への貢献を重視する経営への転換である。


 「米航空大手のデルタ航空は、手元の現預金が約1カ月半で干上がってしまうほどの苦境に耐えかね、14日に54億ドルの政府支援の受け入れを決めた。アメリカン航空とユナイテッド航空もそれぞれ58億ドルと50億ドルの支援を求め、米政府が航空業界のために用意した250億ドルは瞬く間に使い切られようとしている」(日本経済新聞4月29日付け朝刊から引用)。


 250億ドルと言えば、1ドル100円の単純換算で2兆5000億円。コロナの影響による旅客需要の急減が原因とはいえ、わずか2カ月程度で世界的にも巨大な米航空会社が足並みをそろえて「金がない」から「政府に助けてくれ」というのは異常だ。

その大きな原因の1つは、これまで株主にお金を回しすぎて、経営環境の急激な変化に対応するための手元資金が少なかったことである。


 株主は、当然ながら企業の利益からの配分が大ければ多いほど喜ぶ。過去10年あまり、米国の航空会社だけではなく、日本も含めた各国の企業で株主を重視する経営へとシフトする傾向が見られた。

配当金の引き上げや自社株買いを増やす動きがその象徴だ。従業員の給与を引き上げるよりも株主への配分を増やす流れが強まった。

もっと言えば、各国とも金利が極めて低い中で、借金を増やしてでも株主への配分に回したほうが評価は上がり、より投資が期待できるといういびつな動きも見られた。


 では、その株主とはなにか。有り体に言えば、金持ちである。個人投資家はもちろんだが、大きな比重を占める各種のファンドも、お金持ちが投資した資金を様々な形で運用して、より利益を上げるために活動している。貧乏人がファンドを通じて投資などできる訳がない。


 本来、株主とは、ある意味「推しメン」を応援するアイドルファンのような存在のはずではないか。今までにない魅力があり、将来性もあるが、お金がなくて伸び悩んでいる。その企業に惚れて、お金を提供し、育てて、長い目で見て利益も回収するというのが健全な姿だろう。


 しかし、現在の株主の大半は、短期的に利益を上げることができれば、その企業の中身などどうでもいいのである。好きとか嫌いとかは関係ない。投資した金額に対して、どの程度の利回りが期待できるか、がすべてなのだ。


 しかし、コロナの影響が広がる中で、違う側面が見えてきているように思う。

あまりの世界情勢の変化で、今までの投資の常識は崩れた。株は過去にない範囲で急落し、時々急上昇し、投資家の多くはパニックになった。今まで秒速で利ざやを稼ぐコンピュータによる自動売買さえお手上げの状態である。

株だけではない。原油は、5月渡しの先物取引が1バレルマイナス30ドル、40ドルになるという驚愕的な局面になった。

お店に例えると、「そこにある原油、1個30ドルあげるから、いくらでも持って行ってよ」という異常事態である。

コロナによる需要の激減で石油が余りすぎてしまい、もう貯蔵の余地がなくなっているから、持ってても捨てるしかない、でも捨て場所がない、という大変な状況である。


 もう1つ、コロナで見えてきたのは、受給の極端なバランスの崩れだ。あるものは大量に余るが、ないものは全くない。

もう中国の武漢でコロナウイルスが発生してから3カ月以上たつが、いまだに先進国でさえマスクが足りない。ワクチンもない。

短期的な視野が先に立ち、SARSなど過去の感染症から学んだ教訓が生かされていないのだ。


 企業は、もしなにかあったときに備えて、もう少し貯金をしておけばよかったのだ。これは、内部留保をため込んでおけ、という意味ではない。

いざとなれば冷たい株主にばかりお金を回さないで、従業員の生活が豊かになって不測の事態にも対応できるようにお金を向ければ良かったのだ。

従業員は同時に生活者であり、ひごろ様々な商品やサービスを購入してくれる大切なお客様でもある。

また、企業の持続的な成長を図るために、将来を見据えた設備投資にももっとお金を回すべきだったのだ。


 過去のことを言っても仕方がない。コロナは大変な惨禍を世界中にもたらしているが、せめてこれを教訓にして企業経営の理念を再考しよう。


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