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Great America Again だった『ザリガニの鳴くところ』

大統領選でトランプ陣営が "Make America Great Again" を掲げていたが、僕は小説『ザリガニの鳴くところ』に、アメリカのグレートさを最近一番感じた。映画『TENET』もグレートだったけど。

この本の何がすごいかって、
・著者はバリバリの研究者だった。動物生物学
・69歳でのデビュー作
・研究生活の賜物であろう生物への洞察力
・人間に内在する生物性を描くエッジの鋭さ
・それでいて、引き込まれるミステリー小説
・それでいて、青春小説
であることだ。僕の中で、今年衝撃的だった小説トップになるのは間違いない。

そして驚くべきは、アメリカでこの本が700万部以上売れていることにある。日本で言うと、260万部突破!となるだろうか。

この本は、僕にとって面白かった。
でも、日本だと売れて10〜20万部くらいと予想する。

なぜか。
売るためのハンデが大きすぎるからだ。
 ・69歳のデビュー作!
 ・ハードカバー500ページの大作!
 ・1960年代のアメリカの湿地という想像しにくい舞台!
どんな賛辞が帯紙にあっても、このハンデを超えて読む人は限られるだろう。

本当は、社会のシステムに組み込まれて多忙な、都市生活を送る現代人にこそ、この本を読んでほしい。読むと、感じるところが多いと思う。だが、そうした人ほど手に取りにくい材料が揃っている。

『チーズはどこへ消えた?』は世界で2800万部売れ、日本でも400万部売れている。あれは「薄い、平易、ビジネス向け」と好材料が多かったと思う。

だから、アメリカでこの本が700万部売れたことを素直にすごいと感じる。その数は、マーケティングの巧みさで達成できるものではなく、人々がこの物語を欲し、その渇望が、販売のハンデを上回ったのだと思う。

滋味深い野性味に満ちた物語の渇望。

それが顕在化していることにアメリカの底力を感じた。この本が生まれたアメリカすげえと思った、著者のような人物を輩出するアメリカすげえと思った、この本がベストセラーになったアメリカすげえと思った。

そういう意味で、Great America Again な読書体験だった。

今年一番、オススメしたい気持ちに駆られましたので、よかったらぜひ手にとってみてください。最初の30〜40ページくらいは話の筋がつかみにくくて読みにくいですが、そのあとはきっと一気に読めます。

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