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 吉田拓郎の歌で、土産としてサイコロを二つ渡す爺さんが登場する歌がある。

 その爺さんはとにかく博打好き。だからいつもすってんてん。手を振って別れ(おそらく今生の別れ)を惜しむほどの相手に渡せる土産がサイコロぐらいしかないのだ。

 しかもそのサイコロは爺さん自身の人生の象徴である事がまた悲しい歌だった。


 ふと、自分にも似たような経験があるだろうかと記憶を辿ってみた。

 誰かに爺さんのサイコロ的なお土産を貰った事があるだろうか、と。

 編集兼ライター時代、「人並の暮らし」からかけ離れている人物と積極的に会って話を聞いていた時期があった。

 その時はこちらから些少なりともお礼を渡していたので、取材対象から何かを受け取るなんてことは皆無だった。

 無いはずだったが、一度だけお礼としてあるモノを貰った。

 仮にミスターX(当時50代前半)さんと呼ぶことにする。

 ミスターXさんは未婚で、親兄弟とも縁を切り、ホームレス同然で生活していた。主に引っ越しなどの日雇い労働で糊口をしのいでいた。

 日雇い労働の賃金は食事とタバコと宿泊代でほぼ消えてしまう。つまりその日暮らし。日雇い労働にありつけないと公園で寝る生活を送っていたので、その日暮らしにも満たないと言ってよかった。

 謝礼を渡して帰り際、ミスターXさんはおもむろに使い込まれたリュックから金色の平べったいモノを取り出した。「話を聞いてくれたお礼」だと云って、渡されたのだが、初めは面喰ってしまった。そして「これは何でしょう?」と聞くと有名ブランドのシンボルだということだった。

 その正体はリボンで吊るされた羊「ゴールデンフリース」のレプリカだった。

 真鍮か何かに金メッキを施したもので片手に載せるとずっしり重かった。

 日雇い労働の際、デパートのテナントの解体作業があり、現場から出たゴミの中から「こっそり失敬」してきたものだと云っていた。

「何の為に持ってきたのか」と聞くと、

「綺麗だったから捨てるのが勿体無かった」

 ミスターXさんは照れくさそうにそう云った。


 今思うと、やはりこの解体現場からの戦利品である「ゴールデンフリース」もきっとミスターXさんの生きた証なのではないかと思う。

 そして、私は今もそれを捨てずに自宅に飾っている。


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これはメルカリの1000字以内指定の「モノに関する文章」のために書いてみたものです。

ちょっとメルカリ向きではないかなと思っています(笑

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