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百人一首を散らかす 18.藤原敏行朝臣

住の江の岸に寄る波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ



第十八首は藤原敏行朝臣のこちらの歌。

もともとかるたから百人一首に入った口なので、この歌を見るとまず「一字決まり」と思ってしまいます。
「一字決まり」とは、他にこの文字で始まる歌が百人一首の中にはないので、最初の文字を聞いただけで下の句、つまり取り札が確定するもののことです。
一字決まりの歌は全部で七首。
頭文字をとって「むすめふさほせ」と覚えている方が多いのではないでしょうか。
登場したらその都度紹介していく所存です。


作者藤原敏行は、宇多天皇の信頼を得て従四位上右兵衛督になりました。
三十六歌仙のひとりです。
「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる」という歌が『古今集』に掲載されており、こちらの方が有名かもしれませんね。

また書の名人としても知られています。


この歌は主語が男性なのか女性なのかはっきりと書かれていませんが、作者が女性の立場になって詠んだとするのが主流の解釈だそうです。

「住の江」は大阪府にある住吉の浦のことです。
「住の江の岸に寄る波」までが次の「よる」を導く序詞となっています。

この「よる」は”寄る“と“夜”の掛詞。

「さへ」は添加の副助詞で、”までも”の意。

つまり、”住の江の岸に寄る波、その、よる、という言葉のように(、昼間は当然だが、)夜までも”と上の句は訳せます。

掛詞は、その○○という言葉のように、と訳すとちょっとカッコ悪いですが上手くいくことが多いです。

「夢の通ひ路」とは夢の中で恋人の元へ通う道のこと。

「人目よくらむ」の「よく」は漢字で書くと”避く”。人目をさけるということです。

「らむ」は現在推量の助動詞ですが、上の句末尾の「や」の疑問がかかってきますので、下の句は”夢の中で恋人の元へ通う道で(あなたは)なぜ人目をさけるのでしょうか”となるかと思います。

理解するのになかなか古文の知識を要する一首ですね…!

夢の中すらも人目を気にして会いにきてくれない、という切ない恋心が、「岸に寄る波」のようにゆらゆらと行ったり来たりする。
さざ波立った不安定な気持ち、不安定な状況がよく表現されていますよね。


当時は男性が女性の元へ通うという結婚や恋愛が主流だったので、女性は待つしかなかったわけですが、そのつらい女心を男性の作者が詠んでいるというのも興味深いです。

この歌は詞書によると「寛平御時后宮の歌合の歌」とのことで、この歌合は宇多天皇の母である班子女王が主催しています。
女性が主催だったのでこのような趣向を凝らした歌を出したのでしょうか。


そう言えば最近あまり夢を見ていない気がします。
今夜の夢には誰か出てきてくれないかなあ。
通ひ路、あけとくので。

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