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百人一首を散らかす 17.在原業平朝臣

本日は秋を感じられるこの歌。



ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは



競技かるたを描いた漫画『ちはやふる』の影響で知名度が爆上がりした一首ですね。
それを差し引いても、作者の在原業平という名前は古典の授業で誰しも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。


「ちはやぶる」は「神」を導く枕詞です。
「神代」は神々が治めていた時代、古事記や日本書紀に著されている太古のことを言っているのではと思います。

そんな昔でも「聞かず」、聞いたことがない。

「龍田川」は奈良県の龍田神社のわきを流れる川で、古くからの紅葉の名所として歌枕となっています。

「からくれない」の「から」は唐や韓の字が充てられますが、元は大陸から渡ってきたものにつく言葉でした。
それが転じて、美しいものへの尊称として使われるようになり、この歌でも“美しい鮮やかな紅”を意味しています。

「くくる」は“くくり染め”のことだと言われています。
くくり染めとは絞り染めの一つ、もしくは絞り染めそのもののことも言うのだそうですが、糸で布を括ってその部分を染め抜くという技法です。
紅葉の散り敷かれた川面、しかしもちろん端から端まで真っ赤というわけではなく、色の薄い葉や、隙間に水のきらめきが見える箇所もあるでしょう。
それを、川がくくり染めされた、と言ってのける。なんという発想力。

秋の川辺の風に眼前を流れていく鮮やかな紅葉、水の心地よい音も同時に想起される、あー四季の色濃い日本に生まれてよかった! と思わせてくれる歌ですね。


しかし、この歌は実際の風景を詠んだわけではなく、『古今集』の詞書によると「二条后の春宮の御息所と申しける時に、御屏風に龍田川に紅葉流れたる形をかけりけるを題にてよめる」歌だそうです。
屏風絵を見て即興で詠んだ歌ということですね。

二条后は清和天皇の皇后ですが、入内前は業平と恋人関係にあったともいわれている人物。
元カノの持ち物を元カノの前でこんな情熱的に褒めるなんて、さすが稀代の美男子といったところですね…


第十六首の在原行平のときにも書きましたが業平は行平の異母弟で、母は桓武天皇の皇女である伊都内親王です。
伊都内親王と言えば橘逸勢が書いた『伊都内親王願文』で有名ですね。
私もその昔書道を志していた時に臨書しました。

イケメンで恋多き男だった業平は先述の二条后をはじめ様々な女性と浮名を流しています。
『伊勢物語』はそんな彼をモデルに書かれた物語だと伝わっていますね。

六歌仙の一人とされていますが、紀貫之は業平のことを「心あまりてことばたらず、いはばしぼめる花の色なくて、匂ひ残れるがごとし」と、かなり厳しく評しています。


昨今は夏が長引くことが多いので、秋らしい気候は貴重な気がして、嬉しくなります。
お天気のいい日は、業平に思い馳せつつ、紅葉を見にいこーよー!(これが言いたかった)

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