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パイナップルは好き?

わたしの好きな映画監督の1人、王家衛(ウォン・カーウァイ)。

香港映画を観た数は多くないのだけれど、彼ほど美しく香港を描ける人はいないんじゃないかと思う。でもよくよく考えると、あんまり街並みをうつしているのはなくて、部屋の中っていう閉じた空間から感じる香港の匂いがすきなのかもしれない。初めて彼の香港を撮った作品を観たのは『恋する惑星』で、ストーリーや構成はいたって普通なのだけれど、豊かな映画にワクワクしながら観たのを覚えている。それ以来少しずつ作品を観ていて、ちょうど梅雨時期に『欲望の翼』を観た。この映画を観たときの衝撃は生きている限りずっと忘れないだろうし、ずっと好きな作品だと思う。

先日(と言っても書き始めから投稿まではかなり時間があります)、『2046』を観終わり、彼の監督作品を一通り観たことになるので、少しわたしの思いを文字で残しておきたい。


わたしはたいてい映像が綺麗で、音楽が素敵であれば好きな映画に認定してしまうほど、映画にストーリーは重視していないと思う。もちろん展開がうまくて解釈しがいのある映画も好きだけれど。王家衛についてTwitterとかで検索かけると、たびたび目にする「なんかよくわからない」「上部だけ」という感想。ちょっと悲しくなるけど、気持ちはわからなくもないので置いといて、ここまで書いてわかると思いますが、わたしが好きな映画としてさらっと認定してしまうのが王家衛の作品なんですね。

まず、映像で特徴的なのが画面の色。極彩色とまではいかなくても少し振り切った色味になるように編集されていると思う。メイキングを見てもわかるけど、実際に撮られている場面と編集後の場面が全然ちがうのすごい!例えば『欲望の翼』は熱帯雨林を感じさせるような緑。『恋する惑星』は暖かなカリフォルニアを思わせる黄色とか。あと、自然にスローモーションを使ってくるところも王家衛の特徴かもしれない。彼の映像表現は初期作からずば抜けていたけれど、撮影にクリストファー・ドイルが加わってからはそれが確立したと言ってもいいと思う。あと、美術の張叔平(ウィリアム・チョン)の役割もかなり大きい。衣装から小物にいたるまでこだわりが見える。『花様年華』に使われるファイヤー・キングのカップとソーサーは、これがないとあのシーンは、この映画は成り立たないと言っても過言ではないよね〜。

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音楽についてもかなりこだわりがあるように見える。1960年代をテーマにした作品は当時の香港で人気のあったラテンナンバーを多数使用し、1990年代の作品もかなり選曲には拘っているように見える。どこか懐かしさを感じるような曲たちをわたしはプレイリストを作って聴いています。

ストーリーは重視しないと言っておきながら、けっこうストーリーも好きだったりする。ぼやっとしてるけれど、本質は「愛・恋」を通して人間関係を見つめ直すというか。『欲望の翼』のヨディは愛に飢えている女性に深入りできない男性だし、『恋する惑星』は2組の群像劇で、そこには失恋した2人の男性がいる。『楽園の瑕』のベースは東邪と西毒の若い頃だけど、出てくる人物はみんな愛に囚われている。でも恋愛映画かって言われると、そうじゃないと思うんだよな〜〜。感情って目に見えないものだけど、作品たちを観るとどこかぼんやり、愛を描いているんじゃないかな〜って気がする。しかも、どのキャラクターもとても魅力的で(キャストがかぶっているからかもしれないけど)、これだけ愛おしい人たちを描ける監督は、きっと人間が好きなんだろうとも思う。

最後に彼と香港について書いて、このまとめを終ろうと思う。これは『2046』というタイトルともかかわりがあるのかもしれない。映画の中ではホテルの部屋番号と小説のタイトルとして出てくる2046。直接言及されているわけじゃないけど、2046年は香港最後の年と言われている。それは香港の一国二制度が完全に終わる年。1997年に香港はイギリスから返還されたけど、50年はそれまでの体制を維持していいと言われている。その香港の独自性も50年を待たずして徐々に失われているという声もある。王家衛は1958年に上海に生まれ、すぐに香港に家族で移り住み、そこで過ごしてきた。特に1960年代をモチーフにした作品は、王家衛が幼い頃見てきたエネルギッシュで輝いていた香港を描こうとしたのかもしれない。そこに現実と憧れと哀愁を込めて。映画『2046』では主人公チャウが2047から2046の部屋をのぞく。そこにはかつてチャウがチャンと得られなかったものがあるかもしれないから。チャウは「2046」というタイトルの小説を書く。この小説の終わりをハッピーエンドにしなかったのはチャウと同じく何かを失ってしまうから。王家衛の愛した香港は変わってきている。2047年にはいやでも変わらざるを得なくなる。「変わらないものはあると思う?」というセリフの切実さを感じてしまう。

気が向いたら作品分析しようかな。

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