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厳格な父の愛で揺れるベッド


その日、不器用で厳格な父の愛がベッドを揺らした。

揺らしたのは、母への愛じゃない。
それはもちろん母への愛で幾度となく揺らしてきたはずだが、両親の営みをここに書き連ねたって誰が幸せになろうか。いや、誰も幸せにならない。


そう、これは息子である僕への愛の話だ。

厳格な父と僕

父は当時国家公務員で、悪い企業や人と関わるような雰囲気の仕事をしていた。
その影響か、とにかく「正しくあること」を自分に課し、家族にもそれを求めるような人だった。
なんだかルールとか決まりに固くて、冗談も言わないし、母も父を立てるので、はっきり言うと怖かった。

一方、当時の僕は中学1.2年だっただろうか。
少しばかりの「人格」が芽生え、うっすら家族、特に父への反抗が始まった頃だった。
(何かの記事で書いたが、自転車通学で被るヘルメットに✡️←このマークを書いた忌まわしき暗黒期でもある。)


そんな救いようのないセンスをしていた僕を養うべく遅くまで仕事に勤しんでいた父とは、このころ一層おしゃべりをする回数が減ってきていた。


そんな関係性の中での、父の不器用な愛の話だと、そう頭に置いていただきたい。


実は大家族


当時、実家には祖父母と両親、兄弟の8人もの人がいた。(マックスはひいおばあちゃんもいて9人)

8人が2階建てに均等に暮らしているかというとそうではなく、祖父母が1階を使い、両親と兄弟の6人が2階でひしめき合って暮らしていたのだ。

常に誰かが喧嘩してるとか、トイレの順番待ちとか困ることばっかりなのですが、やっぱり1番の問題はテレビなんです!!

当時、2階にはテレビが2つしかなく、リビングに1つと両親の寝室に1つ配置されていた。

兄弟が多いので、当然にチャンネル権争奪戦も激しい。
もし戦いに敗れてしまえば、両親の寝室へとぼとぼと向かうことになるのだ。

(ただ、兄弟もみな父への恐怖心があったのか、チャンネル争いに負けたら大人しくリビングにいるか自室に帰るかで、両親の寝室に向かうのは僕くらいだった気がする。)

ある日曜の夜、「イッテQ」からの「行列」というゴールデンタイムにも関わらず、リビングでテレビゲームという暴挙に出るイカれた兄に敗れ、仕方なく両親の寝室へ向かった。


島田紳助という天才MC

父は仕事だったのか、とにかく不在だったので、僕は伸び伸びバラエティを楽しんでいた。

当時の「行列のできる法律相談所」は、MCを島田紳助という芸人が務めていて、今の100倍は面白かった。

その日も紳助さんのトークが冴え渡る。
ゲストに話を振ったかと思えば、いつしか紳助さんの独壇場となり、おもろい話やイイ話がわんさか飛び出ていた。

知らない方にちょこっとお伝えすると、紳助さんの持ち味のひとつは例え話だ。
ゲストのエピソードが知らぬ間に紳助さんの例え話に終着して笑いが起こっているんだからとんでもない。


それから、スケベな話も面白い。
思春期に突入した中学生男子にとって、紳助さんの下ネタは超の付くほど大好きなジャンルだった。

そう、1人で見るならば。


厳格な父、帰宅

げらげらとテレビを楽しんでいると、父が帰宅した。
厳格な父なので一瞬緊張感が走る。

しかし今更この場を離れるわけにはいかない。
そんな露骨に父を嫌う態度見せるのは、反抗期と言えど忍びない。

父とテレビを見ることを甘んじて受け入れた。

ジャケットを脱いだ父は、僕が座るベッドに転ぶ。

ここで状況を説明させていただく。
両親の寝室は割と狭く、椅子など無いのでテレビを見るにはベッドに乗るしかないのだ。

両親のベッドに転ぶのは気が引けていたので、僕は腰掛けていたのだが、父はそこにごろーんと転んだという状況である。


テレビでは相も変わらず紳助さんが笑いを取っている。

すると、あろうことか、この場面で紳助さんが下ネタを始めた。
当然、僕は盛大に焦った。

何故だろうか、下ネタは大好きで学校では友達とそんな話しかしていないのに、家族のいる空間で下ネタが飛び交うのはものすごく気まずいのだ。
それに兄弟ならまだしも、冗談一つ言わない父だ。

猛烈に気まずい。
下ネタはやめて!と中学生男子にはありえない感情になる。

ついにベッドが揺れる

その回のゲストにまえだまえだという小学生のお笑いコンビの子供が来ていた。

その特殊な立ち位置を面白がり、レギュラーの東野さんが彼らに「紳助さんに何か質問する?」と振ったのだ。

そして彼らはその日の流れを踏まえて、こう質問した。

「なぜ大人はお金とか女とかそういう話をするんですか?」

このパスは紳助さんの大好物だった。

「君は小学生だからまだかな、もうすぐかな。ある日の朝な、起きた時、ん?と思う日が来る。朝起きたら下半身に違和感があんねん。」

やばい。やばいぞ。

「もう少し大きくなったらち⚪︎こが経つねん。そしたらおっちゃんらの気持ちわかるで。」

やべぇーー!
めちゃくちゃに気まずい。
すんごい面白いのに。笑いたいのに。
テレビを注視したまま身動きが取れない。


紳助さん。何を言ってくれてんねん。
こっちのバックには冗談を言わない怖い父がいるんだぞ。
いつも眉間に皺を寄せて難しい顔をしている父がいるだよ。

面白いのに。笑うことができない。

かーっと顔が熱くなるのを感じる。


すると、突然ベッドがポヨンポヨンと揺れ出した。

一瞬地震かと焦ったが、すぐに察知する。
それは、父が笑いを我慢している揺れだったのだ。

たぶん父も気まずさを感じていて、父なりに思春期の子供の前で下ネタををみて笑わないように堪えていたのだろう。


さらに時折、「ふっ」とか「くっ」とか我慢できない声が漏れ聞こえてくるのだ。
気づかないわけがない。

しかも180センチ85キロの大柄な父だ。
なかなかにベッドが揺れている。

それをイジれるほど大人でもない僕は、揺れるベッドの上で紳助さんの下ネタにぴくりとも笑わずに真顔を保つしかなかった。



本当に笑っちゃいけないのは、年末の浮かれた時間に流れるダウンタウンのバラエティなんかじゃなくて、厳格な父と見る下ネタなのです。

今あの頃の父の年齢に近づき、父の不器用な愛を思い出して暖かい気持ちになる重松でした。

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