10章 冒険に備えて

フランキー少佐の命令

聖ギャラクシア帝国学園。

それは、一般人に唯一魔法の原理を理解させることの出来る、魔法学校。

雲の上にあり浮遊する不思議な学校。

そこに、魔界への入り口の手がかりがあるとされていた。

今、学園では混乱の渦中にあった。

敷地内の講堂に集められた学生たちはどよめいていた。

「フランチェスカ先生がいなくなってから、もう何ヵ月も経つんですって。」
「あの人以外に、一般人で魔法物理学を理解出来る先生はいないよ、、、」
「でも僕らは、今、物理学しか勉強してない。
先生の失踪に気づかなかったわけだ。」
「フランキー少佐は知っていたはずよ。
数ヶ月も何をしていたの?
ずっと守護のために学園にいたのでしょう?」
「まさか、今、例の試験を実施するんじゃ、、、。」

そこへ、ボブ髪の長身女性、噂のライラ・フランキー少佐がやって来た。

静粛にと言うまでもなく、彼女の姿を見るとみな黙りこんだ。

「ゴルテス・ガロンがこちらへ向かっている!!
詳細は省く。
要するに我が帝国の敵だ!」
フランキー少佐は、男まさりな顔立ちを更に険しくして叫んだ。

すると、再び聴取がどよめいた。

「静かにしなさい!!!」
フランキー少佐の迫力に、みな押し黙った。

それから、彼女は声を低くして話し始めた。
「当初より伝えていた試験を、只今から開始する。

以前伝えた通り、これは生しを分ける試験となる。

復唱するが、
この学園の支配者、俗に長老と言われる魔物は、魔法物理学の最終試験に合格した卒業生しか、下界へ下ろすことはしない!!

試験の内容を、
今履修している通常の物理学に変更するには、
学園の教授、
つまり研究長フランチェスカ様の魔法許可印が必須だ。

しかし、用務員の魔物ラベンダー・スミスが、たった今長老を説得した。」

帝国出身の学生が声をあげた。
「彼女自身を説得するにも労をそうしていましたよね!?
ずっと、封鎖され錆びきった学園に活気が戻った。
それを失うことが怖くて、彼女はずっと拒んでいた!
1人の小娘相手に、軍人が振り回されるなど滑稽ですね!」

すると、数人に学生達が擁護する。
「ラベンダーさんはそんなことしない!!」
「いつもいつも、学生達のことを思ってくれていた。」

ラベンダーは、魔物だが見た目は女の子。

魔物を嫌悪する一部の者達をのぞき、
歳が近そうに見えて、天真爛漫な彼女は、学生達の人気者だったのだ。

「そんなことはどうでもいい!」
フランキー少佐の声が響き渡る。

遂に、文字通りの意味で、命をかけた試験が幕開けするのだという緊張感が再び舞い戻り、一気に静まり返った。

「これより、試験を開始する。」
少佐は厳格な声で言った。

すると、会場はひそひそとした不安げな話声の後静まり返った。

紫髪の女の子、ラベンダー・スミスが試験用紙を手に入室してきた。

彼女は、元から魔物だったと言う。
この学園の魔物は、ほとんどが元人間なのだ。
ギャラクシアが、過去に魔法と共に封印されたとき、様々な理由で魔物と契約し、魂を売ってしまった人々の成れの果てである。。。


ヴァイオレットとフランキー

メイデン帝国の中庭では、女帝の声が響き渡っていた。

「アルベルト公爵!アルベルト公爵はどこなの!?」
彼女は、庭の中央を闊歩しながら叫んでいる。

真っ直ぐに前を向いて歩きながら、声を響かせている彼女に、
赤い軍服を着た、40歳前後の眼帯の男がいそいそとやって来た。

ヴィオレットは歩を止めずに、彼に言った。
「私が城を留守にする間の護衛を、アルベルト公爵、あなたに一任します」

公爵は、彼女の後を追いながら尋ねた。
「承知しました。
皇女さま、どちらへ」

ヴィオレットは、立ち止まり、公爵を見て厳格な声色で言った。
「魔界です!
くれぐれもこのことは内密に漏洩することのないように。
他国に隙を見せるようなものですから」

公爵は、目を丸くして驚きながら言った。
「ま、魔界、ですか、、、?
リー大佐やフランキー少佐は、、、どちらへ?
同盟国とは言え、公国側の人間ですが、、、」

「彼らも魔界へ行くのです!」
ヴィオレットが言う。

「へ、、、?」
意表をつかれた様子の彼に、
ヴィオレットは手にしていた手紙を突きつけた。
「本来は、リー大佐は私の元につかせるつもりでしたが、
公国の人間であるフランチェスカに持っていかれました」

「それは、大佐が公国の人間であるから、自然な成り行きだと。
寧ろ、今までが特殊な例でしたはず、、、」
公爵が遠慮がちにそう言うと、
       ヴァイオレットは不安げに言った。
「しかし、彼はかなり有能な人材。
こちら側にいてほしかったのですが、、、。」

公爵は諭すように言った。
「そもそも、同盟関係とは言え、異国と共に未開の地に行かれるのは、危険な綱渡りかと。」

「、、、残念ながら、軍事能力に関しては公国の足元にも及ばないのです。
魔界で魔力が使えるかも分かりません。
軍事関係に関しては、専らこちら側の不利です。
互いに協力せざるを得ないのです」
ヴァイオレットはそう言って続けた。

「代わりにフランキー少佐を寄越してくださると!
彼女も公国側の人間ですから、一応は均衡が取れてる形にはなります。
階級と能力の違いには大いに不満がありますがね。

しかも、これには法的拘束力があります。

法律違反の訴えは魔物が聞くというのですから、軽視出来ません!」

「でしたらば、同盟国なので、フランチェスカと行動を共にして魔界へ行かれては?」
そう提案する公爵。

ヴァイオレットは首を振って言った。
「そう簡単じゃないのよ。
フランチェスカは、かなりの変わり者。
同じ公国の人間なのに、フランキー少佐と敵対しているのですよ?
少佐に関しては、私と馬が合います。
つまり、私もフランチェスカと敵対する可能性が十二分にあります。」

「、、、
陛下は、なぜ魔界へ行かれるのでありますか?」
公爵に聞かれ、
ヴィオレットは一瞬答えにつまり、そして苦しそうに話し始めた。

「、、、魔法の謎を解きあかすことで、それが確固たるものになると信じているからです。
果たしてそれは、帝国や民を守る為なのか、皇族の威厳を守る為なのか、
自分でも分からなくなってきました。」

公爵は、言い聞かせるように言った。
「皇女さま、、、
魔法を持つ国は、世界中で唯一この帝国だけです。
常に他国は、魔法を手に入れる術を模索しております。
陛下の即位式で魔力を取り戻した今こそ、
前皇帝時代のような弱体化が再び起こらぬ内に、
その力で確固たる魔法の威厳を手に入れましょう。
他国に、追い抜かれる前に。」

その言葉に、ヴィオレットはふっと吐息をついた。
「そうよね、、、
やるしか、ないわね。」

そう言った彼女は、
子どもの頃に公爵と会話した時ような雰囲気であった。

しかし、厳しい顔つきに戻って言った。
「フランキー少佐からの手紙では、魔界への入り口は、既に突き止めているようです。
私は、今から宮殿を守る、強力な魔法を施行します。

それも、命と天秤にかけるほどのです。

私が生きて戻ったならば、そのまま彼女がいるギャラクシアへ直行します。」

ヴィオレットは、急に神妙な顔つきになり、公爵の肩に手を置いた。
「私が屍になったならば、後はよろしく頼みますよ。」

涙袋

魔界へと向かう船の乗組員たちは、フランチェスカの元に集まっていた。

彼女は、みなに不思議な袋を配って言った。
「ギャラクシアからの土産品にはもうひとつだけ、頼もしいものがありました。

この魔法涙袋です。

この中に、悲しい時や苦しい時に流す涙を入れると、黒玉になります。

それが、魔界で悪魔から身を守る術となるでしょう。

悪魔は、人間の悲しみを糧とします。

黒玉を遠くに投げることにより、そちらへ気を向かせることが出来るでしょう。」

それから、フランチェスカは唐突に言った。
「ですので、垂泣を命じます!

自分の袋に涙を入れてください。
自分達を救うことが出来るのは、自分達の涙だけです」

船長はうんざりしたように言った。
「泣けと言われて泣けるほど、人は単純じゃないぞ。」

フランチェスカは、エリカの異変に気づきながらも、船長に微笑を向けて言った。
「では、囚人さん、魔物からは自力でお逃げください。

本当は、わずかながら攻撃出来る幸せ玉を手に入れたかったのですが、代償が重すぎたのです。

わたくしは、実験機具という、多大な犠牲を払って長老(ギャラクシアの魔物)と契約し、この涙袋を手に入れたのですよ。

その犠牲に報いてください。」

エリカは、先ほどから、髪色の変化と共に悲しみの渦が心を侵食していっていることに気づいた。

髪にかかった呪いが、効力を発揮し始めたのだ。

事故により、ドラゴンの炎が髪を焼き、その時していた髪型ツインテールのまま固定されてしまい、更には奇抜な髪色になってしまった。

それは当初、髪色を変えることが出来ないという、女性の命の源を奪う魔法であった。

しかし、呪いを利用して、更に自身にとって苦しい呪いにすることで、他人の苦しみを軽減させることが出来る。

エリカはそれを、帝国のヴィオレット陛下に施した。

即位の儀式で、魔物が皇帝を選出し、強力な魔力を授かる習わしがある。
ヴィオレットは、その代償として、人から愛されても満足出来ない心を持つことになってしまったのだ。

エリカは、その心を支える為、髪にふりかかった呪いを利用したが為に、
陛下が魔法を使用する度に、強い悲しみを感じるという、更なる強い呪いに変えられてしまったのだ。

公国の自分が帝国の女帝の為に身を捧げた理由は1つ。
両親が帝国で殺されたという証言の、真相をつかむ手がかりになるかもしれないと思ったからだ。

しかし、代償のことは誰にも悟られてはならない。

もしそのようなことになってしまえば、予測不能な代償を支払うこととなってしまうからである。

そして今、陛下は魔法を使用している。

それも、最大級の強力な、、、

髪が薄く変色し、感情の噴出と共に頭がかちわれそうなほどに痛む。

過去の様々な苦しい記憶が頭を駆け巡った。。。

~~~~~~~~~

今回の呪いは、様々な記憶の断片を引っ張り出していた。

「ここも時期に水没する!!」
という緊迫した男性の叫び声。

逃げようとパニックになりごたがえす人々。

その人混みの中に紛れていた女性に見覚えがあった。

エリカの母である。

流され離ればなれになる2人。。。

頭の中に流れる映像は、どれも黒い影で霞んでいた。

その中で一瞬だけ、影のない明るい映像が浮かんだ気がした。

それは、エリカに横笛を差し出した誰かの手。。。

~~~~~~

今、ヴィオレットは、宮殿の高台で、守護魔法を施していた。

両手を空に掲げると、天気雨が降り、それから虹が浮かび上がった。

自然の虹とは思えないほど、油絵の具で塗ったようなはっきりとした色の虹に、民の者たちは、みな何事かと空を見上げていた。

ヴィオレットが手をおろすと、虹は蛇のように畝って彼女の体目掛けて走り、それから頭に衝突した。

その瞬間、虹は、色ごとに別れて帝国の空を覆いつくした。

色たちは光輝き、空の青さを消した。

みな、神秘的な光景に、目を奪われ、時が止まったように静止していた。

それから、ゆっくりと光は消えていき、色たちも褪せていった。

再び青い空が現れた頃、高台の女帝は憔悴しきった様子で言った。
「守護魔法の行使に、成功、しました。」

彼女は虚ろな様子で倒れ、目を固く閉じてしまった。

海賊船

エリカは、涙袋に、呪いからくる涙を垂らしていた。

みな、目を丸くして彼女を見ている。

フランチェスカは、何かを感じとったように微笑を浮かべた。

しかし、魔法は完了したのだろう。
エリカの心を埋め尽くしていた悲しみはすっと晴れていった。

いきなり、晴れ晴れとした顔になったエリカに、フランチェスカは疑惑の顔で言った。
「素晴らしいこと。
まるで、魔物に操られたかのように泣き、そして唐突に晴れた顔になる。」

エリカは、焦りを隠して言った。
「泣けと言われて泣ける、単純な人間ですので。」

その時であった!!

物見台にいた航海士が叫んだ。
「砲台を構えた船が接近しております!!!」

「海賊です、、、!!」
船員の1人が叫んだ。

第一包が容赦なく突撃してくる。

海におち、船がその衝撃で揺れた。

フランチェスカは、颯爽と歩きながら、航海士たちに命をくだした。
「船を海賊船に近づけるのです。
砲台は、わたくしが送り返してさしあげましょう。」

知性のない魔物には怯えを隠さなかった彼女が、
人間には、毅然とした態度を取っていた。

「なぜです?
回避しましょう!」
エリカが言うと、フランチェスカは悠長に言った。

「気づいたのです。
魔界へ行くには、重みが必用だと。

海が坂になっていると、魔界の入り口を垣間見た船長さんは言っていました。

つまり、重心を坂上に向けるには、坂に向かって人間が走り続けなければならない。

その要員を確保するために、肉体のある海賊に打ち勝ち、支配下に置きます!

必要な資材も彼らから奪取します」

エリカが眉をひそめて言った。
「海賊に対して海賊行為を行うということでしょうか?」

「そういうことになりますね」
フランチェスカは、くすりと笑って言った。

こうして、海賊との死闘が始まった。

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