3章 水面下の動き
怪しい実験
雲の上にそびえるギャラクシア。
快晴の中で、雲とともに穏やかに浮遊していたが、
その校舎の講堂では、生徒達が混乱し、口々に不安を吐露していた。
「生死を分ける試験が実施されるって突然言われても。」
「どういう意味で生死を分けるのかしら。」
「試験範囲も明確に聞かされてないのに。」
「とにかく、今から総復習をするしかない!」
~~~~~~
一方、別棟にある研究室では、白衣を着た複数の学生が、混乱とは無縁かのような雰囲気で、研究助手をしていた。
部屋は広く、不思議な形をした器具や装飾品が立ち並び、奇抜だが美しい様相をしている。
助手を仕切る研究者は、柔和で優しそうな顔立ちの長身美女。
ワンピースに白衣の出で立ちの彼女は、
研究長フランチェスカ・フランソワー
(公国の最高研究部門の研究長であり、
S級クラスの国家公務員)
エリカ、マリア、船長の3人に、旅を命じた人物であり、
同行の意思を直前で変え、自身はギャラクシアに残っている当の本人である。
彼女は今、何やら謎の研究に没頭しているようであった。
その部屋に、ただならぬ勢いで入ってきた者がいた。
ライラ・フランキー少佐である。
ボブの男まさりな見た目の女性軍人。
彼女は、厳しい顔つきで、脇に抱えていた書物を、魔法吸着板に勢いよく止めてから、
フランチェスカを見て声を荒げた。
「研究長、、、!
世界を滅ぼす実験をするおつもりですか?!?
粒子爆弾の製造など。」
「何のことでしょうか。」
少佐の勢いに反し、フランチェスカが悠長な様子で言った。
フランキー少佐は、脅威を内に秘めた声色で話し始めた。
「かつて魔法の蔓延により世界は滅びたとありました。
その直接の原因は、魔力により製造された爆弾。
それは、粒子レベルの爆発に匹敵すると言われています。
なぜ地球とわずかな人類が残っていたのかは不明。
しかし、それを作る意味は1つしかありません!
戦争です。」
「何の話しかよく分かりませんが、
私がどのような人物か、あなたはよくご存知のはずです。
権力などには全く興味がない。
仮にそれを作っていたとして、私が戦争に利用するはずもありません。」
フランチェスカが言うと、
フランキー少佐は静かに恫喝した。
「では、好奇心を満たす故にならば使用するというのですか?」
「致し方ありませんね。」
フランチェスカは笑みを消して、真顔で叫んだ。
「ラベンダー!!」
研究長の命により、白衣着の者達の中から出てきたのは、紫髪の少女。
ラベンダー・スミス
学園の用務員の魔物である。
彼女は、白衣を脱ぎ捨て、作業着姿になると、
腰のはたきを抜き、空に振った。
すると、フランキー少佐の後ろに控えていた配下の目が虚ろになり、彼女に剣を向けた。
ハッとして戦闘体制を取った少佐は、彼らのみぞおちを素早くついていく。
その勢いで、少佐は勢いあまりラベンダーまでもついてしまった。
が、、、何と、魔物であるはずの彼女は倒れたのだ。
物理行使は魔物に効かないと言われているにも関わらず、、、
フランキー少佐は目を見開き、
フランチェスカはその様子を楽しむかのように薄ら笑いを浮かべた。
それから、「殺りなさい」と命を下す。
研究室に配置された護衛が、戦闘態勢に入った。
その時である!!!
実験器具の破壊音と共に、風圧が部屋にいた人間を吹き飛ばした。
破壊されたガラスの破片は、飛散することなく宙に漂い奇妙な光景が広がっていた。
フランチェスカは、乱れた態勢のまま、不適な笑みを浮かべて言った。
「実験は成功したようです。」
フランキー少佐は、険しい顔で立ち上がり声を荒げた。
「地球が残存したのは、その恐ろしい爆弾を魔力で作ったからだという説があります。
故に、エネルギーの大半が魔界へと消え去ったからだと。
あなたは、科学的に製造する方法を研究していたのではないですか?!
暴走した科学は、魔法でも食い止めることは出来ませんよ!」
フランチェスカは、その言葉を無視して、事務的な声色で言った。
「予測値以上の圧力が器具を破壊した為、
後に有毒ガスが漏洩し、部屋に蔓延するでしょう。
封鎖せねばなりません。」
彼女が装置のレバーを引くと、壮大できらびやかな天井の照明が回転し、部屋を光が駆け巡った。
そして、部屋端の天井から順々に、光るガラス板が降りてきて、シャッターのように部屋を区切りながら封鎖していく。
「待て!!」
フランキー少佐は、切迫した状況で、事実上の権力者にも怯まずに叫んだ。
だがフランチェスカは、少佐の制止を聞かずに、
透明容器の中にある小さな物体を取り出し逃げ出した。
フランキーは彼女を追うことを諦め、
倒れて意識を失ったラベンダーを担いで部屋を出た。
~~~~~~~~~
ラベンダーを廊下に連れ出したフランキー少佐は、
彼女が目覚めると、姿勢を低くし、横たわる彼女に目線を合わせた。
そして、静かに言った。
「なぜお前が研究長側にいたかは想像に難くない。
S級公務員の権限で、ギャラクシアを存続すると唆されたのだな。
国家間の問題で一時的に開校されたにすぎないこの学園に、お前はすがりついているんだ。」
ラベンダーは、まだ冴えない意識の中、虚ろな目で呟いた。
「あたしは、閉鎖された学園にいるのにうんざりしてただけです、、、
ここに縛り付けられてるから、出ることも出来ないし、、、」
少佐はラベンダーを睨み付けて言った。
「例の試験についてはどうするつもりだ?」
ラベンダーは、よろつきながら体を起こして、壁に背中を預けて座ると、真顔で言った。
「あたしに試験範囲設定する権限はありません。」
それから、目が冴えてきたのか、にこっと笑って言った。
「それに威圧的に言われると引いちゃいます。」
少佐は、言葉をつまらせたが、ゆっくりと体を引くと、
頭を地面に擦り付けた。
「どうか、例の試験を実施していただきたい。」
その珍しい姿を、数人の生徒達が遠巻きに見ながら通りすぎていた。
思いがけない行動に、ラベンダーは若干驚きながらも、笑顔のまま明るく言った。
「任せてください。
あたしにも考えはありますから!」
幻覚の魔界
雲の上に聳える聖ギャラクシア帝国学園
世界唯一の魔法学校である。
かつて、卒業生により魔法が乱用され世界が滅びかけた時、世に蔓延した魔力を封印する入れ物が開発さた。
それが、魔法遺伝子である。
非常に脆く壊れやすいそれは、受精卵に入れられることで安定する厄介な性質故に、魔族を誕生させてしまった。
そして今、魔族は皇帝になりあがり、帝国を魔法で支配しているのである。
しかし、第一王子エレンが拐われてから、女帝の力によりギャラクシア封鎖の魔法を解かなければならなくなった。
何の目的か、エレンを人質に、ギャラクシアの開校を迫った者がいるからである。
その者の名は、ゴルテス・ガロン
彼の仕える国は、魔法で支配する帝国だけでなく、科学で支配する公国までもを
敵に回している状況にある。
ゴルテスは、今、自分の主の前に跪いていた。
王の側近が、声をあらげた。
「ゴルテス!!
いつになれば、魔界への扉が分かるというのか!?
そもそも、魔物は、この世と魔界を行き来しておろう!!
魔物が扉の場所を知っていることは明白だ!
なぜ、契約ではなく、同盟を結んでいるはずの我々に教えない!
このままでは、お前の陛下への忠誠心を疑うことになるぞ!」
ゴルテスは、邪悪な顔に薄ら笑いを浮かべて言った。
「魔物は、魔界の扉からやって来るわけではないので、その場所は知りません。」
側近の顔つきが変わる。
「どういうことだ?」
「そもそも、奴等は幻覚、実態のない存在なのです。
皆に共通に見えて触れられる幻覚なのです。
である故に、人間のような物理的手段で来るわけではありません。」
予想外の奇怪な話に、側近は得体の知れぬ恐怖を顕にした。
「幻覚?ならば奴等は存在していないということなのか?
我々は幻覚と同盟を結んでいるのか?」
「実在するのかはさておき、、、
彼らは、意思ある生き物のように行動する。
我々と意志疎通が出来、人間のような長期記憶を持つ、、、
つまり、幻覚でも、生きている幻覚ならば、交渉する上で何ら問題はないでしょう。」
側近は更に疑問を投げつける。
「魔物が幻覚ならば、そもそも魔界など存在しないのではないか?」
「そうとも言い切れません。
奴等は容易にこちらの世界には留まることが出来ない。
この世界の空気が合わぬ故にです。
裏を返せば、空気に合う場所=魔界を棲みかとしているということ。
奴等自身が公言しています。」
「魔物は幻覚なのだろ?
魔界とやらは、人間の脳ミソの中にでもあるというのか?」
側近が眉を連ねて聞く
「魔界が物理的に存在しないとして、、、何が問題なのです?
脳内で魔界に行く錯覚をしたとして、、、その錯覚は魔物と同じ、皆に共通に見える錯覚なはずです。
ならば、単なる個人の妄想などではなくそれは、限りなく現実に近いということ。」
ゴルテスの話に、側近が疑わしげに言った。
「作り話じゃなかろうな?!」
「まぁそう焦るでない。」
これまで黙っていた王が、穏やかに言った。
その王は、皇子エレン・メイデン・ギャラクシア
ゴルテスに拐われたはずの帝国の皇子である。
彼は、今やメイデン・ギャラクシアの名字を名乗っていないだろう。
「先日、空のはるか彼方で、奇妙な光を見た。
あれは恐らく、ギャラクシアからの光であろう。
何か大事が生じたにちがいない。
ギャラクシアは常に浮遊している。
居場所を突き止めにくいことは承知している。
しかし、ギャラクシアは、魔界の扉についての唯一の手がかりなのだ。
何かあってからでは遅い。
すぐさま、見つけ出すのだ!」
ゴルテスは頭を垂れた。
「仰せの通りに。」
目次(プロローグ)にとぶ⬇️
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?