2章 レイナ・マリン


水の魂

その後、報酬を受けとった3人は、舞妓と別れ、本格的に人探しを始めた。

歩きながら、船長は辺りを見回して言った。
「しかし、ここは一体どこなんだ?」

ここに見られるのは、
屋台やタイル張りの道、荷台を引く馬車、、、

ビルやアスファルトの道、自動車のあるアクア公国明白地帯とは全くの別世界。

科学技術の退化した魔法の国、メイデン帝国暗黒地帯と同じような風景である。

エリカは、言った。
「それは、暗黒地帯の海のどこかの孤島でしょうね。
明白地帯じゃ、こんな、、、古風な風景見られないし、、、。」

「暗黒地帯ではありません。」

そう言い放ったのはマリア。

「え、、、?」
予想外の言葉にエリカは戸惑う。

一瞬言葉を失うも、
ハッとして思い付いたように言った。
「明白領域にある、 観光名所的な場所ですね!
ギャラクシアの雲なら、死領域なんて易々と超えられるでしょうしね。」

「明白領域でも、ありません。」
マリアは、エリカの言葉を否定した。

またもや困惑させられるエリカ。

眉を潜めて怪訝な顔でマリアに言う。
「明白地帯でも暗黒地帯でもないって、、、。
そんな場所ないですよ?
この世界は、この2つの地帯に二分されているのですから。
死領域を隔ててね。
まぁ、死領域も入れると、3つに分かれてはいますが、、、。」

そこまで言って、エリカはサッと血の気が引いた。

「もしかして、、、」
というエリカの言葉を、
マリアが引き継いだ。

「死領域です。」

「は?何て?」
船長が声を荒げた。

「死領域です。」

マリアは、無表情のまま、再び同じ台詞を言った。

彼女は、いつものように、平然としている。

エリカは、撒くし立てるように言った。
「関門以外で、生きて渡る者はほぼ皆無のエリアですよ!
野営はまだしも、いやそれもかなり危険ですが、
人が日常的に生活する場所があるだなんて、あり得ません!」

マリアは、尚も表情を変えることなく言い放った。
「しかし、現にここは、日付変更線上にあります。
日付変更線上の周辺が死領域なのですから、ここは、完全に、死領域です。」

「日付変更線、、、?」
エリカがぽつりと呟く。

マリアは答えた。
「はい。
日付変更線は、暗黒地帯も明白地帯も同じ緯度を通ります。
暗黒地帯から逃げ出した人間の松末が、明白地帯の人間なのですから。

そして、この島民の日数の数え方と、日照時間の関係を照らし合わせれば分かります。
ここは、日付変更線の通る島ということにはなります。」

「でも、、、なぜこの島では普通に生活出来るのでしょうか。。。
それに、この島は貿易の中継地。
暗黒地帯の者ならみんなここを知っているはずです。
知っているならば、この島を経由して、明白地帯に行く者も、いたのではないでしょうか。」

「いたけど、殆んどが、死にましたよ。」

その言葉を発したのは、エリカ、マリア、船長、、、
誰のものでもなかった。
背後から聞こえたその声に聞き覚えがある。

皆振り替えってその人物を見た。

「舞妓さん、、、?」
エリカが声にした。

長い藍色の髪の美女が、そこにはいた。
涼やかで凛とした美しさを持っている。

エリカ達を雇ってくれた舞妓さんだ。

どうやら、、、別れて幾ばくもなく、再開したようだ。

「何だ?
もう一度雇ってくれんのか?」
船長が言った。

「何度も雇ってあげる余裕はないですよ。」
舞妓はそう言ってくすりと笑った。

笑うと小さなえくぼが浮かぶ。
清楚な見た目に反して、子どもらしい雰囲気の女性である。

「明白地帯を知っているのですか?」
エリカが舞子に尋ねる。

「この島の人は、殆んどが知っていますよ。」
舞妓は、ニコニコと笑顔を振り撒きながら言った。

「だってこの島は、死領域のこちら側と向こう側が地続きになっていて、
しかも、生きて安全に行き来出来るから。

だけど、この島を一歩出ると、そこは危険地帯。
島付近の海底には巨大な渦が発生していて、何もかも沈み、木の枝でさえ浮かぶことが出来ない。

だから、島から出て明白地帯の国に行くことは出来ない。」

とんでもなく奇怪な話である。

ふと疑問が沸いて、エリカは尋ねた。

「暗黒地帯側の海には、渦がないのですか?」

「ありますよ。
でも、メイデン帝国には、渦を物ともしない、魔法の船がある。
だから、暗黒地帯の者ならば、この島を知っているし行ける。」

「、、、なぜ、ここは安全なのでしょうか。」
エリカが問うた。

「水のたまが守っているからですよ。」

舞妓は朗らかにそう答えると、話し始めた。

「ここは、実は、本当は島じゃないんです。
浮いてるんです。海水に。
下に発生している巨大な渦が、この大地を支えているんです。

そして、巨大なエネルギーが発生する場所には、物のたまが宿る。」

「物の、、、魂?
それは、魔物ですか?」
エリカが意表をつかれたように言う。

舞妓は答えた。
「魔物ではないですよ。
魔物が使う魔法そのもの、、、。

魔物は人間の幻覚だと、されていますよね。
でもなぜ、
幻覚が物理的危害を加えることが出来るのか。

それは、魔物の魔法が、物のたまに命令する技術だからです。

死領域から守るほどの魔法を、大規模な範囲で行うには、特別な力が働く場所でないとなりません。
ここは何故か、水のたまの力が強いのです。

だから、強大な守護魔法を魔物は維持することが出来るのです。」

「府におちないな。
単なる幻覚(魔物)が、魔法を扱うか?」
船長が口を開いた。

「うーん、、、」
舞妓は、暫く考える素振りを見せる。

彼女も分からないようだ。

考えた末に、舞妓は閃いたように言った。
「もしかしたら、幻覚に自我が芽生えたのかもしれません!」

「それはもはや幻覚とは言わないんじゃないか?」
船長は方眉を上げて言う。

今まで黙っていたマリアが、口を開いた。
「ところで、話を戻しますが、
水のたまに、この島を守るように指示している、、、つまり守護魔法を扱う魔物がいるのですか?」

マリアの話し方は、初対面だと引いてしまうほどに平坦である。
だが一切気に止めることもなく、
                         舞妓は朗らかに答えた。

「水の魂を扱う妖精は、いますよ。
それは、人と全く変わらない姿でこの島に住んでいて、死領域の奇怪な力から人々を守っています。」

「つまり、善の魔物、妖精ですね。」
マリアが問う。

「はい。
その妖精は、レイナと呼ばれている。
そして、レイナと契約した人物の死肉を被っているのです。
妖精は善の魔物といえど、人間の世界に定着するようなことは出来ない。
だから、肉体を借りて人間になる必要があるのです。

誰もその人物を知らない。
本人さえも、知らない。。。

肉体を持っているから、表層の意識は脳に支配されています。
夜深い眠りにつくとき、潜在的に妖精の意識が呼び覚まされて、魔法をかけているのです。

その魔力に耐えうる肉体が、、、必要。」

舞妓はそう言うと、更に続けた。

「その死肉は、、、

魔族の産みの母だと言われています。

魔法遺伝子を注入した受精卵の代理母。

その遺伝子に耐えうる強い力を宿していた。
だから、妖精はこの母を選んだんじゃないかと。。。

その代理母は、開発者の助手と言われています。」

最後の言葉で、旅人3人の顔つきが変わった。

初代魔族の産みの母が、魔法遺伝子の開発者の助手、、、。
それは当に今、エリカ達が探している人物の祖先である。

「その死肉を被った妖精はどこにいるんだ?」
船長が食い入るように聞いた。

「言ったではありませんか。誰も知らないって。」
舞妓は平然と答える。

エリカは、
ポンと手を叩いて意気揚々と言った。

「じゃあ、その妖精を探せば一石三鳥です!
魔族の肉親であり、開発者の助手であり、更には死領域から人間を守る妖精にも会えます!!」

「そいつは屍だがな!」
船長が鼻で笑って言った。

「何言ってるんですか?
生きた屍ですよ!きっと何かのヒントになるはずです!」
両手を腰に当て、エリカは船長を睨み付けた。

舞妓は2人を交互に見て、「生きた屍ですか!」と豪快に笑った。

天真爛漫な彼女に、エリカも船長もきょとんとしていると、舞妓が言った。
「まぁそれを探すなら、
生け贄の地に行けば良いですよ。」

「生け贄の、、、地?」
エリカが首を傾げた。

「そう。
荒廃した広野で、古代から悪魔との契約に使われていた地。

そして、その地の下に、沈められたとされている。

水の都レイナ・マリン。」

「沈められた?レイナ・マリン?」
エリカは、思いがけない情報に、更に食いついた。

「空から突如現れた巨体な水の滝によって、沈められたと伝えられています。
でも、その水が何なのかは、知りません。」

「そうですか。。。」
エリカが一言そう返すと、
      今度はマリアが尋ねた。
「その場所、、、レイナ・マリンが埋まるとされている、生け贄の地は、どこにあるのでしょうか?」

「この町の西の外れに小さな村があります。
その村の住人が管理していますよ。」

「そうなんですね。
ありがとうございます!」
エリカはそう言って頭をさげた。

「どういたしまして!」と言うと、舞妓は声を潜めた。
「あ、それと、、、。
その地に行こうとしていることは、なるべく知られないほうが良いかもですよ!
理由はまぁ想像つくと思いますが、
村の儀式を行う大切な場所に、村民以外は立ち入らせたくない人もいますからね」

エリカは固唾を飲んで頷いた。

「じゃ、また!」
舞妓は可憐に去っていった。

彼女が行ってしまうと、船長が2人を見回した。
「さ~て、どうしますか?」

「決まっています!その生け贄の地とやらに行きます!」
エリカはそう言ってから、マリアにも声をかけた。

「ルイスさんはどうですか?」

マリアは、エリカを見つめた。
可愛らしい顔だが、冷酷に見えるほどに無表情である。
「私も同じ考えです。
西の外れの村に行きましょう。」



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