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This is Bradford ⑤

<イギリス人にすらもあまり馴染みのないらしい、英国の小さな町の大学で、留学生として過ごした3年間の日々を、思い出しながらぽつぽつと
綴ります。>

さて、いよいよ2週間のpre-sessional courseが始まった。これは、大学の
本授業が始まる前に、英語を母国語としない留学生を対象に英語の授業を
事前に行うコースのことで、8月中の一般の学生がいない夏休み期間中に
行われるのだ。恐らく管理が大変なのと、人数が限られているからだろう、
大学が持っているいくつかあるうち、最もこじんまりした2階建ての寮に
受講生全員が入れられた。一応、男性は1階、女性は2階というふうに
分けられているらしい。

まあ、そんなことはさておき、私にとっては英語の授業よりもビザの
方が切実なのです。まず、学部の事務局に行くと、「はっ」とするような
美人さんがいた。もう一人の女性(こちらは場所柄からか、頭にスカーフを
巻いている、パキスタン系の女性。どうでもいいが、こちらもかわいい)と
2人でこの学部の事務を取り仕切っているらしい。優しい笑顔にちょっと
ほっとして私のアホな状況を説明する。美人さんのEさん、ふんふんと
頷きながら聞いてくれる。だが「えーと、そういう事については……」と彼女が話し始めた口元を思わず見つめてしまった。ものすごく訛っている。
聞き取りに四苦八苦しながらなんとか、「国際なんちゃらセンター」ていうのが、大学の本部棟にあるから聞いてみて、と言われたのだと理解して、
そちらに向かう。

まあまあ揺れる割と年代物のエレベーターから降りると、事務棟はひっそりと暗くて、不安になる。しかしビザ、ビザだビザ。進まねばならぬ。
これまた女性が数人いる国際なんちゃらセンターの部屋に入って聞いてみると「いやー、そういうのは私たちはやってないわ。よくわからないけど、
学生ユニオンに相談してみたら」とタライを回される。頼む、目の前にあるその電話でどこかに連絡して聞いてみる、ということを試してくれ、と思うが戦えない。「はーい、わかりましたー」と言いつつ、学生ユニオンと
いう、謎な建物に行ってみた。

穏やかな表情をした男性に声をかけて、国際なんちゃらセンターで相談したらここに行ってみなと言われたのですが……と告げると優しい顔が少し
曇って、「は?」といった感じで止まってしまった。「ここではちょっと
そういうのは分かりかねるんだけどな〜」と言い始めたので焦り、
「でもすでにあちこち聞いて回って、どこでもうちじゃないと言われてここに来たんです」とぽそっと言ってみたら、「そっかー、うーーん、じゃあ、ちょっと待ってね」と言って、少し先にあった扉をノックし、誰かと話している。戻ってくると自分がプレッシャーから解放された喜びからか、彼は
再び笑顔を取り戻し、「あそこの部屋にSっていう人がいて、話を聞いて
くれるから行ってみてね」と言って去って行った。

トントン、あのーーー

そこには、50代くらいだろうか、金髪の長い髪をムーミンに出てくる
ミーみたいに頭頂部に一つにまとめた女性が座っていた。鼈甲のやや
太めの縁の眼鏡をかけて、ろうけつ染めっていうんだったっけ、
ちょっと蛍光色っぽい緑とかピンクとか黄色とかの背景に白い絞り
みたいのが散っているTシャツを着ている。えーと……。

どうしたの?その笑顔は、何というか言うなれば菩薩に見える感じで
「何でも聞いてちょうだい」と言った彼女は、カウンセラーなのだった。
私は、迷える悩み多き子羊認定されてしまった。部屋に入る前にSの名前と
肩書きが書かれたプレートが目に入り、「カウンセラー?え?いや、
そういうことじゃないんだけど」と若干躊躇したのだが、破れかぶれに
なって「話が通じるなら誰でもいいわい」と突入したわたくし。

見た目の感じとは相反して(失礼)、Sは辛抱強く私の状況を聞いてくれ
そして言った。「まずは、銀行に口座を作るところからね!」「え」

もしサポート頂けたら、ユニークな人々と出会うべくあちこち出歩きます。そうしてまたnoteでご紹介します。