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ギャラリー,イベントで出逢った作品

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偶然の出逢いも含めた、ギャラリーやイベントで出逢った作品たちを紹介した記事をまとめたマガジンです。
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#イベント

蘇る,熟れた果実の匂いと生き物の気配- 木村充伯[匂い]

 8月某日、六本木。  木村充伯 - 匂い@ケンジタキギャラリー 六本木(※8/7までという案内だったが、8/24現在では、まだ開催されていた) 匂いの記憶、存在の気配  入口を向いて立つ、ふしぎな雰囲気の木彫りの人形に興味を惹かれて中をのぞいてみれば、  その白い空間の壁一面に、フルーツのオブジェが展示されていた。  それぞれの果実の中には、人?が生息しているようだ。 記憶の中から、匂いが呼び出される  会場には、リアルではないのに妙に存在感のあるコウモリや、

空白の創造 誕生あるいは消滅 -稲葉友宏[A STORY THAT YOU SEE](-8/31)

 8月某日、天王洲アイル。  稲葉友宏 個展「A STORY THAT YOU SEE 」(-8/31) 形のない「空白」の造形  観た瞬間に、とてもふしぎな気分に駆られる。 誕生?あるいは消滅  作品たちそれぞれの姿には、生き物ゆえの生気が感じられるのだが、否それだからこそ、  その中心にある「空白」から、目が離せなくなる。  彼らは今まさに、(どこかから転送されてきたかのように)この地に誕生しているのか、その反対に消滅しかけているところなのか?  それは定

芥見下々『呪術廻戦』展(-8/27) -作品世界という[領域]を愉しむ

 某日夕方、渋谷。  大変遅ればせながら、芥見下々『呪術廻戦』展へ。  会場は渋谷ヒカリエ。作中で2018年に勃発した「渋谷事変」の舞台の地でもある。 時間予約制、入場まで30分  予約は時間制で、さらに3グループに分けての入場となる。入場できるまでに30分ほど待った。  子どもたちが多いのかと思いきや、時間帯もあってか、入場待ちをしている来訪者はほぼ全員大人、しかも20~60代といった幅広さの方々で、ちょっと嬉しくなる。  入場記念のステッカー。 写真撮影はN

既知の風景が鮮やかに上書きされる -平 久弥「渋谷」

 平 久弥 個展「渋谷」@NANZUKA 2G(渋谷 PARCO、7/12– 8/11) 何気なく見ていた風景の存在感  さきの説明にもあるように、本展「渋谷」で描かれているのは、渋谷界隈を訪れたことがある人なら「ああ、ここは渋谷スペイン坂の……」というふうに、気が付く場所ばかりだ。  そしてそれは決まって、待ち合わせ場所に使われるような目立った地点でも、立ち止まって眺めたりする印象深い場所でもなく、ただ一瞬通り過ぎてしまうような一地点でもある。  フォトリアリズムの

陽光の下で深淵を覗く -エリザベス・グラスナー[Head Games]

 某日、六本木ピラミデビル。  エリザベス・グラスナー「Head Games」(7月2日~8月31日)@ペロタン東京 呼び起される無意識  展示作品は、反射的に、その意味を問いたくなるものばかりだ。  もちろんのことだけど、作家の持つ意図はきちんと存在する。  ただ、作品の前に立って対話(自分と?)していくうちに、意味の追究は、する必要がないのではないかという気になってくる。  冒頭に転載した作家紹介にあるように、掘り起こされているのは、もしかして自分の無意識であ

[卵]の意味,時代を辿る -中西夏之1962~2011@SCAI PIRAMIDE

 7月某日、六本木ピラミデビル。  中西夏之:1962〜2011(6/22-9/14)@SCAI PIRAMIDE  作品を観て、力強さに惹きこまれた。そして今頃だけど、美術界の重鎮であった作家だと知る。 「コンパクト・オブジェ」 美しい作品の連続のなかに、既視感を覚えるそれはあった。  観たことがある。思い出した。国立近代美術館でのことだ。  記憶のなかのそれは、たまたま作風の似た作家さんのものだったのか、それとも中西さんの作なのか。  検索すると、作品名が出て

アートとは感じるもの,という言葉の意味 -Materiality and Language: Explorations in Form and Meaning Curated by Esthella Provas

 7月某日、KOTARO NUKAGA(表参道)。 ステファン・ブルッゲマン  ステファン・ブルッゲマンの出典作品2作のうち1っ作品は、このようにギャラリー入口に展示され、外からガラス越しに鑑賞する。  ふと何かが気になって、目を凝らせば、  中央に、こんな文字が刻まれていた。  ギャラリー内のこの作品にも、  いろいろな意味に解せそうなメッセージが刻まれている。  母語と遠い言語だからこそ、そして短いからこそ、その意味は漫然としていて気になる。アートとしての美

時のコラージュ-岡田菜美[The eternal moment](7/3-7/20)

 岡田菜美「The eternal moment」(2024/07/03 -2024/07/20)@gallery UG Tennoz   永遠と一瞬の共存 時のコラージュ  異質な何かを貼り合わせることで生まれるコラージュだと思い込んでいた。実はアクリル絵具を何層にも重ねてそのあと削ることで生まれるコラージュ風の表現は、その中に作家が過ごしてきた時を織り込んでいるようにも感じられる。 自分の内面を旅する  作品世界に入り込み、そこで自分の知っているなにかと再会し

直島 地中美術館,水面,モネ,そして鍵岡リグレ アンヌ -[Undersurface]鍵岡リグレ アンヌ@MAKI Gallery

 6月某日、天王洲。  この日を待っていた。  鍵岡リグレ アンヌ「Undersurface」(6/22-8/03) アーティゾン美術館での出逢い アーティゾン美術館で展示を観て、強烈に印象に残っていた。  アーティゾン~の作家紹介は、下のとおり。  説明文にもあるように、その作品は立体的だ。(もちろん、すべてのアート作品は写真に撮ったときには本来のパワーをはぎ取られてしまうけれど)、写真にはとても写し取れない魅力に満ちていた。  アーティゾンでの展示風景↓ 惹

自然の美,愛と自己肯定 -風能奈々「このために生まれた」(6/8-6/29)

 よく晴れた、6月某日。  風能奈々「このために生まれた」2024.6.8 [Sat.] - 6.29 [Sat.] アクリル絵の具から生まれる細密な世界  遠目からは、何かきらめいている画面、としか見えないけれど、  近寄れば、その緻密さに息をのむ。  解説にあるように、絵を前にすると、まるで金属のプレートを掘ったかのような、あるいは彫刻であるかのような、はたまた織物なのではないか、といった印象をうける。  読んでもなかなか信じられない。作品たちがアクリル絵の具

記憶のなかの夜景 -[ZONE-TOKYO] YUSUKE KITSUKAWA (-7/13)

 6月29日、品川から天王洲。   YUSUKE KITSUKAWA個展「ZONE-TOKYO」初日(-7/13)  作家のKITSUKAWA氏から声をかけていただき、お話することができた。わたしは薄暮の時間の湾岸の写真を撮ることに熱中していた時期があり、作品を前に自分の経験も蘇ってきた。伺いたいことは山のようにあった。  本稿の前半は個展のようすを、後半は、伺ったお話から蘇ってきた、私的な経験や感想も含めて記していきたい。 東京湾岸、みなとみらいの夜の風景  会場

愛,ときおり困惑 -Hyangmok Baik " You know how much I love you"

 某日、天王洲。  Hyangmok Baik「YOU KNOW HOW MUCH I LOVE YOU」(-7/13) 困惑とユーモアと  展示作品には、ヌードの男性のモチーフが登場する。緊張した面持ちにも見える「彼」にじっと見つめられて、鑑賞がはじまる。  「彼」(同じ人物なのか、作品ごとに違う人なのかはわからない)は多くの場合、動物とともに描かれる。  困っているような表情と、しかしどこかユーモアを感じさせる色彩や姿かたち、描かれ方が、なんだか気になる。 「

静と動の均衡点 -[未来のかけら: 科学とデザインの実験室]03

「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」@21_21 DESIGN SIGHT  内容、展示数とも盛りだくさんで、今回はその3回目(=最終回)。 A-POC ABLE ISSEY MIYAKE+Nature Architects  まずA-POC ABLE ISSEY MIYAKE×Nature Architectsによる、1枚の布からできたブルゾンの制作プロセスを。  つまり、下の写真のマネキンの背後の布が→スチームストレッチ技術によって、マネキンが纏うブルゾンに

フレームとその内部 -セルバン・イオネスク[Lisi]@NANZUKA 2G

 某日、渋谷。  セルバン・イオネスク「Lisi」(– 7/7)@NANZUKA 2G ポップなフレームに目を奪われて  今回の展示は6作品。  作品は原色の赤、青、黄のフレームに入っており、否応にも目を引く。フレームは帽子のようにも山のようにも、建物のようにも見える。 家と、その内部  ところで、描かれている人物?というか存在なのだけど、  目を奪われがちなフレームから視線を外して描かれているそのものを見るならば、そこにはまた別の印象がある。  描かれている