『日本水商売協会』読了

 世間ではマイナスイメージが付きやすい水商売業界、その中で働いている人々や社会との関係を紹介しつつ水商売の在り方を考えていく一冊です。タイトルになっている日本水商売協会(正式には一般社団法人日本水商売協会)は本書の著者が立ち上げた団体で、どんな団体かというと「日本の接待飲食業界全体を底上げし、また活性化するべく活動する業界団体」とのことです。このような団体が組織されるほど日本国内の水商売業界には課題が多いと著者は述べます。水商売というと性的なサービスを行う商売だとか反社会的だなどと思われがちですが、むろんそのようなダーティな店もある一方で、健全なビジネスを展開すべく奮闘している人々もたくさんいると著者は主張します。
 水商売には差別がつきものです。著者によれば、水商売に関連する企業は金融機関で新規口座を作るのに多大な労力を必要とします。金融機関からの融資を受けることもできないようです。大企業との取引ができない、水商売に従事していると家を借りられない、という点も指摘されます。これらの差別を解決するために日本水商売協会は活動しています。
 健全な水商売を実現するために必要な要素は「店舗、働く女性、顧客、社会」の四つです。例えば店舗のある地域を大切にしている店。自分のメリットの前に店のメリットを優先できる女性。働く女性に対して敬意を持って接することのできる顧客。水商売を職業として尊重する社会……などが求められます。これらについては一般企業でも似たような振る舞いが求められるような気もします。従業員のモラル向上やお客様との友好関係などは水商売と関係のない会社でも重要なものでしょう。逆に言えば、ダーティなイメージが付く水商売であっても真面目にやるべきことをやるべきで、そうすれば業界が活性化するところは一般企業と変わらないという構造を持っていることになります。だからこそ努力次第で水商売は健全な企業活動ができるようになるわけです。
 高学歴だったり、裕福な家庭で育ったなど、恵まれた環境から水商売に転職した人々も紹介されています。自分の成し遂げたいことをやりきるために水商売にトライしていった人々です。職業に貴賎なしと言いますが、水商売も美しいところがあり、やりがいのある職業なのだと述べられています。幸福の形は様々で、水商売業界に入って明るい生活を手にすることも可能なのでしょう。
 本書のラストでは日本における水商売の未来はどうなるかを見通しつつ、いまだ数ある課題を解決していこうという著者の意志が描かれ終わっていきます。課題が多くあるのに解決しようとする人が少ないために著者は日本水商売協会を立ち上げましたが、水商売の市場は二兆円以上の規模であり、たくさんの人が従事している巨大な産業です。そこで能力のある人が水商売業界に入ってくれば環境は活性化し、社会の中のイメージも良くなっていきます。少し大げさですが、水商売業界が盛り上がれば日本の経済も盛り上がる可能性は十二分にあると著者は述べます。その中で忘れてはならないのが水商売は接待を伴う飲食業であるということです。お客さんがホステス、キャストとの時間を楽しみ、気力を補給する空間を提供し共有する、それが水商売の大切なところです。決して社会のルールから外れてはいけませんが。
 これからもこうした社会の死角にある情報が読みたいものです。コング…ディーディーコング…

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