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024【身銭を切れ――「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質】を読んで


書籍情報

書籍名:身銭を切れ
著:ナシーム・ニコラス・タレブ
訳:千葉敏生
監訳:望月衛
発行日:2019年11月


内容判定

●読みにくさレベル……【3】読みやすいが文意を汲むのは難しい
●参考文献……文中に訳注と解説はあるが注は無し、巻末に4Pの参考文献一覧、索引、用語集あり
●内容の偏り……皮肉的
●内容ページ数……約400P


概要

 身銭を切る、というテーマに対して、非対称性、顕示選好、不確実性、格差、倫理、反脆弱性、善、宗教、合理性、意思決定を含む様々な観点から「実践的な議論」、「哲学的な物語」、「科学的・分析的な解説」を組み合わせた内容となっている。


どういう人が読むべきか

 困ったことにどういう人が読むべきか、という問いに軽々と答える適切な言葉が見つからない。「身銭を切る」というタイトルとざっくりとした内容だけで判断すれば自己啓発本だと説明をするが、日本のインフルエンサーが書いたいかにも万人受けするような内容とは全くもって趣が違う。じゃあ真にどういう人が読むべきか正直に答えろ、と言われれば、薄っぺらい自己啓発本や著名な学者が書いた社会学や経済学の厚い本を何十冊と読み、良い意味でも悪い意味でも疑問が生じているなら口直しに読んでみたら?もしかしたら答えにつながるヒントがあるかも、と説明する、そんな内容である。


キーワード

・くりこみ群
・少数決原理
・コースの定理
・リンディ効果
・メンタルアカウンティング
・義務論的リバタリアニズム


以下、感想

 この本の内容を上手く伝えることはかなり難しいように感じる。「身銭を切る」ことはリスクと責任を負うことであるというのは至極単純な話だし、その内容がおかしいものでも難しいものでもないので、なにも考えずに手に取れば、ちょっとひねくれてる自己啓発本ぐらいの印象しか受けないのではないだろうか。君の行動には責任が伴う!なんて言われても、それはそうだなぐらいにしか思わないし、そんな当たり前で耳が痛くなるような事実よりも、できる限りノーリスクで楽に儲けられる裏技を教えてくれ…なんて思うのが一般的な人間の心情だろう。実際には責任を負わない綺麗事は口にしても、責任を負って行動できる人は少ない。
 とはいえ、複雑なもののほうが評価されやすいというのが世の中の常であるというのも近からずとも遠からず。自分自身の行動に責任を持ちましょう、と告げるよりも、難しい専門用語やわかりやすいが理解はしてないグラフを駆使して簡単に年数%の利益を得れますよ、と言われたほうがきっと納得するわけで…。そしてこの本もくだけた口調ではあるものの書いてある内容は真面目なものであることには違いない。しかし難しいことを簡単に読みやすく書いてあるものの万人に広く役立つような内容ではない。ある意味での真理が書かれていると思ってもらっても構わない。しかし真理が必ずしも望んでいるような内容とは限らない。身銭を切る(=責任を負う)ことは大事だと言われても、現実では身銭を切らずに楽しそうにしてる奴がいるのであれば腑に落ちないだろう。それに誰しもが身銭を切ることで「必ず」幸せになれるわけじゃない。要領が悪かったり、都合よく身銭を切らされて損してる場合もある。そもそも身銭を切れるほどの余裕がない人もいる。だからこそ、この本をどういった人が読むべきなのかは非常に難しい。身銭を切ることができて、なおかつ成功に結び付けられる人がはたして何%いるのだろうか?それを自己啓発本のようにわかりやすく諭すのではなく、学問的に色々な観点から小難しく書き記し納得させるこの本に従う人が何%いるのか?と考えるとなおさらである。
 この本の理解としては、身銭を切らない人はイコール

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