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016【新しい階級闘争―大都市エリートから民主主義を守る】を読んで


書籍情報

書籍名:新しい階級闘争
著:マイケル・リンド
訳:寺下滝郎
監訳:施光恒
解説:中野剛志
発行日:2022年12月

内容判定

●読みにくさレベル……【3】
●参考文献……文中に注付き、巻末に20Pほどの参考文献リスト有り
●内容の偏り……特になし
●内容ページ数……約270P

概要

 世界が資本主義や新自由主義の中でグローバル化を進めながら発展していく現代においては様々な問題が起こりつつある。例えば格差であったり、ポピュリズムの台頭であったり、右派と左派の対立であったり…である。本書はこれらの原因は「上からの革命」によるものだとし、それによって戦後から続いてきた「民主的多元主義」が機能不全に陥った結果、こうした問題点が政治を不安定にし、多くの分断を生み出しているとしている。そして著者はそれが単なる格差やポピュリズムの問題なのではなく、その根本には大多数の労働者階級と、それを使う立場である高学歴のマネージャー(管理者・経営者)との階級闘争があるのだと主張している。

どういう人が読むべきか

 近年(少なくともトマ・ピケティ以降)、格差というキーワードが話題となっているが、本書はそこからもう一歩踏み込んだ内容を提示している。これまでの格差に関する書籍は切り口が多少違えど、格差があるという事実に焦点を当てており、内容的には似通ったものが多かったが、この本ではより本質的な、より文系的な立ち位置から興味深い論考となっている。格差に関する本を読んだ後の次の1冊として読んでもいいし、現代社会の問題点を理解するための1冊として読み始めても面白い。注意点としては内容が欧米を中心としたものであること、経済学と政治学に関する用語を理解するのにある程度の知識と理解があったほうがいいことである。

キーワード

・テクノクラート新自由主義
・規制アービトラージ
・アファーマティブアクション
・反独占主義
・民主的多元主義

以下、感想

 保守の主流派、欧米エリートらが世襲的階級の事実上の消滅を考えているというのは、マイケル・サンデルのような視点からはどうも怪しく思える。著者自身も世代間の流動性の低さや大学教育を受けられる階級の一部が世襲であることは認めている。日本に住んでいるからそう思うのか、それらの本を読んでいるからそう思うのかはわからないが、欧米における能力主義的なある種の偏見が問題を大きくしているように思える。まぁ日本においても裕福とは言えない家庭から勉学に励み良い大学に合格する…というのはある種の美談ではあるが、欧米ほどの意識のズレがあるようには思えない。ここらへんの話はマイケル・サンデルの本を読んでみてほしい。
 俗に言うところの新自由主義、つまりは1980年代頃からの変革は、頭でっかちな民主主義をスマートな管理者(経営者)へと置き換える流れであった…というのは日本やアメリカを見ていると想像しやすい。大きな政府として多くのことに政府が関与することは一見すると賛否両論あると思うが、与党に対して野党がなにがなんでも反対する…ような構図になれば結果的にはマイルドな…つまりは中途半端な政府運営になりかねない。だとすれば、優秀なマネージャー(管理者・経営者)に任せたほうが良いというのは理解できないわけではない。もちろんその後には資本主義という競争の中に組み込まれたことによって起こる不具合が出てきているわけだが…、企業という狭い範囲で利益を出すことを優先する組織では弱者を切り捨てるという政治的に見ればありえない選択肢を選ぶ余地があるし、一周遅れで欧米の流れに準じた2000年代の構造改革が手放しで称賛されていない(少なくとも私が本から読み取れる範囲では)ことを考えると、政治と経営には大きな差異があり、エリートなマネージャーが国や世界を上手く回せるわけではないことがわかる。
 この本がよくある格差に関する本と根本的に違うところは

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