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この世界は優しさで溢れている

オーストラリアでは徐々に日の出が遅くなって、朝晩はひんやりとする日が増えてきた。
逆に日本には春が訪れ、登山シーズンが到来。皆のSNS投稿を指をくわえて眺める日々が始まる。

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春は近場の山に一人で出かけることが多かった。

この日は畦ヶ丸に行ってみることにした。

始発で登山口に向かい、西丹沢ビジターセンターから登山スタート。塔ノ岳や鍋割山のある表丹沢とは違って、少し道が分かりにくい。人も少ない。静かな山行が好きな私は、足を踏み入れてすぐにこの山域が好きになった。

スタートから渡渉が多い。ハイカットの登山靴を履いて来て良かったと思いながら、ピンクテープを頼りに進んだ。新緑越しに差し込む光が綺麗だった。

静かな山の中を新緑と鳥の声と水の音を楽しみながら登った。

春の西丹沢は新緑が美しい

ふと橋から川を覗き込んだ。

何を思って覗き込んだかはもう忘れたが、頭に置いていたサングラスがあっという間に清流に飲み込まれて消えた。さようなら、お気に入りのサングラス、さようなら。こういうのがマイクプラスチックになってしまうのだと、自然に対して申し訳ない気持ちになった。

しばらく行くと『本棚』の標識を見つける。丹沢には棚と名の付く滝が多い。左右の二本の滝を眺めながら休憩していると、他の登山者がやってきた。なんと、下棚を見逃していたらしい。そんなに遠くもないようなので、戻って見に行くことにした。水量も多くて、こちらも素敵な滝だった。

歩を進めると、白やピンクのヤマツツジが咲いていた。葉っぱが独特な可愛い白い花も見つけた。帰宅後にこれがこの時期の西丹沢で有名なシロヤシオだと知り、3週間後にまた西丹沢を訪れることになる。

葉っぱも可愛いシロヤシオ

丹沢らしい階段に次ぐ階段も花のおかげであっという間だった。無事に畦ヶ丸に登頂し、中川温泉ぶなの湯まで下山した。玄関で登山靴を脱ぐ。この登山後の温泉で靴を脱ぐ瞬間は何とも言えない爽快感がある。そんな爽快感を味わいながら、入浴しようと受付へ向かった。

、、、財布が見つからない。

一旦登山靴に足を戻して、外のベンチでザックの荷物を全部出してみるも見つからない。記憶をたどると、行きのバスまでは手元にあったことを思い出して、富士急湘南バスの受付窓口に電話をしてみると、『お預かりしております。』とのこと。ほっとした。しかも、利用予定の電車の駅に届けてくれると言うのだ。これでもかというくらいの親切に触れて、涙が出そうだった、というか、少し零れていたと思う。

温泉でも事情を話すと、普段使われていない電子決済機を起動してくださり、のんびりと温泉に浸かることができた。この世界は優しさで溢れている。

最後に駅で財布を受け取った。富士急湘南バスのお兄さんはイケメンだった。

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実はオーストラリアに移住してすぐに、バスに財布を置き忘れた。その時も中身全てそのままに手元に戻ってきた。

私はこちらでも周りの人に助けられて生きている。

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