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恋愛のことと心のこと 6

 その次のデートは時商店街を歩いてチェックポイントを見つける、というスタンプラリーに似たイベントだった。これもレイトショーの時よりはましだが終わったのは夜遅く、次の日は仕事だった。彼は以前と同じように食事に誘ってきて、私は「いいよ」と言った。先日の罪悪感があった。それに「以前から言っておかなければと思っていたことを話すいい機会かもしれない」とも思っていたのだ。
 それは「お付き合い」のことである。
 私ははっきり告白されたことはなかったので、「付き合う」という関係には至っていないと思っている。だが、色々な時に自分と彼の考え方が違っているのを感じるし、これも考え方の違いで相手は「付き合っている」と思っているのかもしれない。私も相手に向き合って、自分の意見を言ったほうがいいのではないか、そう思っていたのである。
 食事が一段落して私は話を振った。
「なんとなく言いにくいんだけど、私は人を好きになったことがないし、その感覚がわからない。家族は大切なものだと思うし、友達も好きだし、でも恋愛の好きがよくわからない。もしあなたが私に好意を持ってくれてるならありがたいなあと思うけど、マッチングアプリをはじめたの、そういうのもわかるようになれたらいいなあというお試しも含めてなんだ」
 なるべく自分の気持が正直に表れるように言葉を選んだつもりだ。そして婉曲的に「あなたと私は付き合っていないです」と言ったつもりである。そういう人ではないと思いつつも「は?こんなに沢山会っているのに?」と言われたらどうしよう、もし怒られたら、でもこの心配は相手のことを思い遣るというより自分を擁護したいだけだ、されても仕方ないのかもしれない……と内心私は思っていた。だが彼の返答はあっさりしていた。
「そっかあ、そういう人って珍しいね」
 私はかなり身構えていたので拍子抜けするとともにほっとした。彼は少なくともそういう「珍しい私」をあっさり「受け入れて」くれたのである。
「うん、そうかな。で、友達もどんどん結婚していくし、私も年齢的にしたほうがいいかなって考えて。でも好みとかすら私わかんないんだよね。やっぱりアプリで探すとき写真を見てはいたからある程度判断はしてると思うんだけどさ」
「俺ははっきりしてるな」
「あっ、好みとか?どんな人が好きなの?」
 私は興味があった。彼の好きな人は、今まで好きになってきたのはどんな人なんだろう。漫画のキャラクターの好みも人間の好みも自分ではわからないし、それらを一緒にしてしまうくらいに私自身はぼんやりとしている。でも好きなものを追いかけるオタクの友人はいつも楽しそうだった。そういう人が彼にもいるのだろうと思ったのだ。
「え〜ちょっと言いにくいし、知らないと思う」
 そこで私は冗談で
「なになにまさかエロい仕事の人?」
「……」
 表情をみていて驚いてしまった。当たってしまったらしい。この人もそういうものを見るんだ。男の人だからそういうものなんだろう。そして、彼はそういった映像で有名な女優さんの名前を上げた。折角だからと言いつつ平静を装って検索する。
「こういうちょっときつめの顔の人が好きなんだよね」
「なるほど」
 若干動揺はしていたが、自分で聞いて検索までしたんだから、と言い聞かせながら私は画面を見ていた。そうか、男性だから、いやそういうカテゴリー分けをするのがよくない。好きに違いはあるのかな、私が彼に受け入れてもらえたように、私も彼を受け入れられるといいなと思っていた。

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