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恋愛のことと心のこと 4

 会う場所として決まったのは駅に近い居酒屋だった。
 やり取りの中で店のURLを貰い、時間を決めて落ち合うことになった。こういった場所を調べるのはあまり得意ではないのでありがたいなと思い、お礼の連絡をして、そして当日を迎えた。慣れない場所なので数分前に到着し、店の前で待っているとほどなくして相手がやってきた。その時の印象は「背が高いな」「目が細いな」くらいで、特に実際に会ってぎょっとすることもなく、素直に「この人を好きになれたらいいな」と思った。
 軽く自己紹介をしてから店の中に入り、席につくと、彼はきょろきょろしだした。
「どうしたの」
「いや、web上での写真と違うなって。店が違うかも」
「えっ、でもURLにあったところのビル名もあってるし、階もあってるから大丈夫だと思うよ。ここ上の階も同じ店をしてるみたいだし写真は上の階なのかな」
 もう一度送られてきていたアドレスを確かめ、メニューに書いてある店名と照合するとそれらは同じだった。だが、たしかに彼の言う通りweb上には綺麗な夜景が見える大きな窓に面したカウンター席の写真が載せられていた。対して今いる四方約二メートルない少し手狭な個室とは全く違う。しかし、正直私は「まずは会って話をしよう」と意気込んでいて、場所のことはあまり気にしていなかったし、むしろ言われるまで気が付かなかった。
 しかしそんな私とは逆に、彼は憤慨していた。
「こんなの詐欺じゃないのか」
 私はそこで内心「どうして私が大丈夫だと言っているのにこの人は怒っているのだろう」と思ったが、すぐにはっとしてその気持を飲み込んだ。
「私は気にしてないので大丈夫ですよ、お会いできればと思ってたので。彼さんがこの場所を楽しみにしてたのならあれですが・・」
 そうなのだ。自分は招かれている訳ではないのだ。この人は場所が写真とは違うことに憤っているが特に私にどう思われるかを気にしているわけじゃない。だから私が気にしていなかろうが、関係ないのだ。相手の不機嫌は私のためではない、私のために行動しているわけではない。私は自覚はなかったが自分自身のことをレディーファーストとでも扱われたいと思っていたのか。そして私は彼を自分の思ったように「私は気にしていないんだから、そこまで怒らないで。雰囲気悪いしやめて」と言うのはわがままなのではないか。
 その時の私は「彼が何をするのも自由なんだから、自分の思い通りにさせようとするのはいけない」と思ったが、今思えば彼に「そんなに言うのやめようよ」というのも私の自由で、それに賛成するか反対するかも彼の自由なのだからそこで引っ込む必要はなかった気がする。しかしここで考えたのは「相手と向き合う際に自分の思ったことを口に出していいんだぞ、でも相手に押し付けて従わせようとするのはだめだな」でそれが今回のことの判断基準になっていったものだと思う。
 私はこの時点で彼と「恋愛」をする気でいた。

 はじめは色々あったものの、その後自分の趣味の漫画や、最近見始めた動画の話を素直に話すと、相手と少し似た趣味を持っていることも分かり話が盛り上がったため「はじめはちょっと場所が悪かったが最後は楽しかった、これは好きになって、もしかしたら後々には結婚できるかもしれない」そう安易に期待した。

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