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恋愛のことと心のこと 7

「付き合っていない」状況にほっとし、その関係のまままたデートに行き、彼と会う最後になったのが、私の部屋だった。

「君の部屋で一緒にゲームをしたい、できたらご飯も作って欲しいなあ」
 と彼が言った時、私は
 きたな
 と思った。
 部屋に行きたい、ということに関しては少し前から話が出ていた。外でデートをするのに場所次はどこにしようか、とするのに対して「家でだらだらするのもいいかもね」と話が出ることが頻繁にあり、最近は明確に家にいきたいと話をしてくるので、予定を詰めてくる予想はついていたのだ。
 正直気は進まなかった。部屋に来るということは当然何かしらについて意識してしまう。付き合っていないよね、と公言はしたのですぐに迫ってくることはないだろうとは思うが、なんとなく嫌だ。全くその気になっていない。むしろ私は「好き」がわからない。お付き合いの話すら振られるのは正直困る。
 だが、と思った。「お付き合い」を考えてくれている人の申し出を断るのはどうなのか。「お友達」の誘いを、また「付き合う」話を振られるのが困るっておかしいのではないか。付き合ってもいない自分とデートを重ね、彼は待ってくれているのだ。それなのに自分で歩み寄ろうともしない自分は誠実ではないのではないか。
 私は自分の気持と、何が正しいかを考えた。そして、
「ゲーム一緒にできるのはいいかもしれないけど夜には帰ってね、明日仕事だから。ご飯は下手だからまだ披露は無理」
と言って、家に来るのを承諾した。
 彼はご飯のことには残念そうに「え〜〜」と言いつつ喜んだようだった。一気に日程が決まった。

 私は彼が家に来ることに決まってから一週間気が重かった。
 ここに来たいと言ったのは彼だがいいよと返事をしたのは私だ。しかも彼はわざわざ電車で「来てくれる」のである。私の気が重くなる道理はない。歓迎して然るべきだろう。簡単なものもつくらない私は不誠実なのだろうか。
 また、相手が目を輝かせてそう言ってくるのは「自分のために何かしてくれる」というのを求めているようでそれも嫌だった。私は家族や友達の範囲で、大切な人が辛い目にあっていると、積極的に力になってあげたいと思う。また、たまに助けをもとめられると「よしきた、わたしでよければがんばるぞ」という気持ちになる。料理は別段得意ではないものの、以前友人が来た時にチョコレートケーキを作った。それなのに、これとはどう違うのだろう。
 私はまた考えて、結局その時と同じようにチョコレートケーキを作った。


 いよいよ当日になった。
 私は車で彼を駅に迎えに行った。彼はにこにことしていていたが、私は謎の疲労感に襲われ、会話の返答に困っていたし、しっかり応えられない自分自身にも嫌になっており、内心ぐるぐると考えていたのだが、彼はそれを指摘してきた。
「あこちゃんって無口だよね、でも俺珍しい人って好きだからさ」
 私は恥ずかしさと悲しさが含まれる「ショック」を受けた。
今の状況は確かに無愛想だし、もともと会話はうまくないと思うが無口と言われたことはない。だが自分が無口だなんて思ったこともない。だが彼は優しいつもりで、「無口な私を受け入れてくれている」のだ。とてもあなたのことを考えて悩んでいるとはうまく言えそうにないし、さらにどうしたらいいかわからない。でも正直にいなければ、そう思った。
「普段はそんなことないんだけどな」
 彼の返答は憶えていない、印象に残るようなことを言われなかったのだと思うが、沈黙だったか、他の話題に続いたとかそんなところではないかと思う。


 昼食を済ませていよいよ部屋に着いた。彼は「綺麗な部屋だね」と言ったので私はほっとし、おやつとして持ってきたチョコレートケーキを出してゲームの電源をつけた。
「俺のため?俺のため?」と言った。彼は特に何も間違ったことは言っていない。ある種論理的だと言える。でも私はなんだか「そう、あなたのために作った」と言いたくなかった。そしてそう思う自分に罪悪感を持った。
 彼は友人と同じように「美味しいね!」と言ってくれないな、と思いながら「また私は相手に自分の期待を押し付けている」そう思った。

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