Volkswagen Power Dayの広報戦略に思うこと
2021年3月15日、日本時間の21:00からのドイツ・フォルクスワーゲン(VW)のPower Dayという公開イベントに、オンラインストリーム視聴で参加してみた。
本イベントは、VWの電動化に向けたバッテリー開発戦略について。戦略ビジョン、技術観点からの発表会で、グローバルでのメディア記者や業界関係者、技術に関心のある人々向けだった。
クローズドのメディア向け、オープンな投資家向けイベント配信はよくあるが、グローバルの記者や業界関係者を対象とした開発戦略のオンライン配信は興味深い。開催時間は、ドイツ時間の午後1時、日本時間午後21時、アメリカ西海岸は少し早めの午前5時だが、なんとかグローバルで参加ができるタイミングに設定されていた。
今回この記事では、イベントの内容そのものというよりも、ニュースルームを活用した記者コミュニケーションや、ソーシャルメディアを含めた総合的なオンラインイベントとして興味深かったため、日本の技術企業広報の方々にも参考になればと、わかる範囲で広報の動きを中心にまとめておく。
イベント前の動き
このイベントを知ったきっかけは、3月12日に公開されたVWからのプレスリリース。たった10秒のティザー映像には”This is not a car presentation.”とだけあり、詳細については知らされていなかった。
メディア向けだけではなく、YouTubeライブストリームで一般にも公開ということから、2020年9月に開催されたテスラのBattery Dayを連想させた。
イベントリリース直後の各メディアの反応
The Driven
"The company’s Power Day may also bring us news of battery supply, which is becoming an increasingly fraught concern for many automakers as they scale up their EV offerings. But, even if Volkswagen’s Power Day doesn’t deliver the same headline-grabbing hype as Tesla, the trends nevertheless highlight the impact"
InsideEVs
”Whatever it is that Volkswagen wants to announce on March 15, we’re curious. Herbert Diess would probably not get involved if it was not something important.”
リリース時に提供されたのは、ティザー映像のみであったため、記事は、その映像を埋め込むか、過去のCEOの写真を活用するかで構成され、テスラと比較しつつ、どのような内容が発表されるかの推測や期待を含んで、執筆されていた。EVメディアのほか、Bloombergなどもリリースを受けて記事を執筆していた。
日本語では、自動車メディアを中心に先行してイベントに関する言及があり、イベント当日にBusiness Insiderの記事がYahoo!ニュースに出ていた。
ソーシャルメディア
CEOのHerbert Diessは、リリースより前3月9日にTwitterでイベントについて言及している。
彼は、2021年1月からTwitterを開始し、イーロンマスクを意識して巻き込みつつ、SNSでの存在感を広げているところ。
企業のニュースルームからもCEOの各ソーシャルメディアをフォローできるようになっており、広報戦略として、CEOを接点に、積極的にコミュニケーションを展開しようとしている。下記は、Twitterを始めたCEOの最初の投稿。イーロンマスク意識がすごい。
LikedInの企業ページにもイベントが作成されていた。開催前にリマインダーが飛んできて、この時点でLinkedIn上で3000人以上が参加すると表明していたので、イベントを見逃せない気にさせる。
ストリーミング
イベントでは、電動化に向けたバッテリーの開発戦略が発表された。YouTubeのストリーミングで、英語とドイツ語版を用意。スピーカーは英語で話しており、ドイツ語版は、ドイツ語の同時通訳を被せていた。
開始後約10分で下記のような視聴状況。英語版で視聴していると、約2000人がリアルタイムで参加していた。
映像は、スタジオ空間でスピーカーが話す内容と、スライド、動画、イメージ動画がバランスよく構成されており、観やすいプレゼンテーションだった。
ニュースルームを通したメディアへの情報提供
私自身は、ストリーミングを観ながら、VWのニュースルームやソーシャルメディアを見て回っていたのだが、ストリーミングと対応した情報提供が素晴らしかった。
セッションのスピーカーの発表写真や発表内容、スライドなど、ニュースルームトップにCurtain up for Power Dayとして表示され、イベント進行とともにニュースルーム内に、順次公開されていった。記事を書く側にとってはありがたい。(というより、オンライン発表ではもはや必須の対応)
イベントの冒頭の発表で述べられた2030年へのロードマップは、イベント中にプレスリリースで発表された。
Unified Cellという共通デザインのバッテリーセルを導入してバッテリーコストを半分にすること、2030年までに同社の80%の車両で採用する計画、欧州を中心に工場製造キャパシティを拡大して2030年のEVの需要をカバーすること、パートナーシップを含めた充電環境の強化などに言及した。
CEOコメント
“E-mobility has become core business for us. We are now systematically integrating additional stages in the value chain. We secure a long-term pole position in the race for the best battery and best customer experience in the age of zero emission mobility”, says Herbert Diess,
技術トップコメント
“We aim to reduce the cost and complexity of the battery and at the same time increase its range and performance”, says Thomas Schmall, Volkswagen Group Board Member for Technology. “This will finally make e-mobility affordable and the dominant drive technology.”
ロードマップ要点と、数値目標、企業ビジョン、マネジメントのコメントなどが盛り込まれており、記者としては、このリリースをもとに、発表第一報記事が出せる。
ヨーロッパの自動車B2BメディアAutomotive News Europeがイベント開始1時間以内にイベントのオンライン記事を公開している。速い。
(上部にイベントへのリンクがあるので、タイアップしていたのかもしれない)
イベント当日の速報レポートはここまでとして、またイベント後のメディア掲載などの状況を分析して見てみたい。おそらく、自動車業界メディアはもちろん、テクノロジー、ビジネス関連メディア、グローバルで掲載が出てくる。
イベント所感
オンラインイベントは、コロナ禍に入ってから多く開催されるようになったが、グローバルの視聴者を対象に発信できるようになったことは、大きなメリットがある。
技術関係の記者にとっては、企業の本社のマネジメントや開発責任者の発表をグローバルのどこからも観ることができ、執筆もスムーズにできることは大きな魅力だ。特に、新技術の開発戦略は、各現地の販売戦略とは異なり、本社マネジメントからのビジョンや情報がほしい。
その分、企業側では、手で抱えきれる以上の人を対象とするため、記者向けにはニュースルームなどでリアルタイムでの情報提供のハブをつくることや、イベント前、中、後にリアルタイムで対応しながら、メディアに記事化されるための準備をしておく必要がありそうだ。
ベンチャー企業では、創業者が前に出るのは当然だが、組織でやってきた大企業が、企業を軸にしたコミュニケーションに加えて、技術者出身のCEOを軸にしたコミュニケーションをしていくことによる、伝達効果やイメージ戦略にも注目している。
そして私達が取り組むこと
これまで私達Aaltoは、モビリティ、IoT、ロボティクスなどの分野で、技術企業のグローバルでのメディアリレーション、ニュースルームを通した発信の変革、デジタルコンテンツに8年前から携わってきたが、やっと力を発揮できる時代がやってきた気がする今日のこの頃。
今、さまざまな業界でゲームのルールが変わろうとしている。
ゲームのルールが変われば、プレイヤーも、取引構造も変わり、企業の立ち位置やコミュニケーション、オーディエンスも変わってくる。そして、それは、自ら変わる企業にとっては、絶好の機会でもある。
新しい産業が生まれるところで、いかにリーダーとなるか。
関連する重要な人々に、深く知ってもらい、強く支持され、密に協力や協業し合う動きを先導していく。それをまず国内から..では遅く、最初からグローバルでやることを考えていかなければならない。
先例をたどってより良くしようとするより、先陣を切って、先例になってしまった方が、情報発信や展開の観点では、結果的に大きな恩恵を受けることもある。人々は、無難な同じようなものではなく、その先を見たいし、それに挑戦する人や企業を面白いと思うからだ。
私達は『その先の世界』を創り出す瞬間を見たくて、この仕事をしている。技術企業とのプロジェクトや、メディアとの関係構築を続けていると、その最前線にいる人は、各々の利害を超えて、企業もメディアも業界リーダーも『その先の世界』を見てみたいという情熱を心に持っていると肌で感じてきた。
世界に新しい技術、事業、そして産業そのものを創り出していく中で、これからのコミュニケーションは、どうあるべきなのかを見極め、技術企業とグローバルに『その先の世界』を創る挑戦をしていきたい。
※トップ写真:VW公式ニュースルームからの提供
Aalto International Japan
Mari
https://www.aaltoin.com/
同じくドイツ企業の取り組みだが、過去記事もご参考に。