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[恋愛小説]1978年の恋人たち... 5/二人の決意

次の日曜日、優樹と美愛は、取手駅改札口で待ち合わせし、利根川の堤防に向かって歩いていた。
二人の会話は進まない、押し黙って土手の上の道に上る。

梅雨の合間の晴れ間の、青空が二人の上に広がっていた。天気も良いせいか、堤防上の道は、散歩する人、ランニングする人が多く、下のグラウンドからは、草野球の声も聞こえる。

優樹が話し始める。
「この間は僕がわるかった。あれから、よく考えたんだ。」
美愛「何を?」
優樹「後2年したら、僕も就職するし、そしたら一緒になろう。」
美愛、驚いて、歩みを止める。
美愛「一緒になるって?」
優樹「結婚しよう。」
美愛「…。そんな急に言われても…。」
優樹「まだ学生だから直ぐには無理だけど。卒業したら。」
美愛「…。」
優樹「今度、ご両親にご挨拶に行くよ。」
美愛「…。」
美絵は、立ち止まり涙ぐんでた。優樹にはそう見えた。

6月末の気まずい別れから、優樹はそれまでの自分の身勝手さと連絡する事に躊躇していた自分を恥じた。そこで初めて彼女の気持ちを考えた。美愛は何故自分と付き合っているのか?どんな気持ちで東京まで逢いに来るのか?そんなことさえ、気づかなかった、考えなかった自分の愚かさを呪いたかった。
美愛には「結婚しよう。」と言ったが、本当はプロとして自信が付いてから結婚と考えていた。が、それが逆でも、良いかなと思い始めていた。
優樹は美愛と初めて会ったときに、不思議なことに、自分はこの娘と一緒に成るような、予感がした。それまで付き合ったガールフレンド達にそんな気はおきなかったで、不思議だった。だが、今ではそれを受け入れようとしていた。
問題は、それぞれの親への説得だろう。半人前の自分たちが、そんなに簡単に結婚を許してもらえるとは、思えなかった。
だが、少しずつ進んで行くしか無い。それが、二人にとって、困難な道だとしてもだ。
二人は堤防を歩いたあと、駅前の喫茶店で、これからのことを話し合った。

美愛は、急に結婚という言葉を言い出した優樹の変化に驚いたが、彼がそういうなら、それはそれで良いと思った。元から彼には好意以上の気持ちがあったし、初めてキスした相手と、結婚しても良いと思った。
中学、高校、短大とミッション系の女子学校だったから、男子には縁が無かった。だから今までボーイフレンドと呼べる付き合いも無かった。
優樹と付き合いだし、2度目のデートでエレベーターに二人きりに成った時に、抱かれて唇を合わせたのが、ファーストキスだった。余りに突然で、驚いて緊張してしまった。エレベーターが1階に着いて、ドアが開いても歩くことが出来なかった。
だから、優樹がこれから変わり、自分を大切にし守ってくれるなら、彼に賭けても良いと思った。
両親にきちんと挨拶して、これから真剣に付き合ってくれるなら、自分も彼を守って同じ道を歩んで行きたいと思った。

それが1978年7月上旬の出来事だった。



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