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[恋愛小説]1981年の甘い生活...5/小淵沢にて...

優樹の運転するスカーレットのフィアレディZの助手席に美愛を乗せ中央道を西へ向かっている。

季節は初夏、夏の日差しが厳しく季節だが、高原の風は爽やかで、日陰に入ると心地よい。
今日は土曜日で、小渕沢のリゾート開発現場を見たら、美愛と清里のリゾートホテル八ヶ岳に泊まる予定だ。
最近は担当する現場が多く、多摩地区だけでなく、守備範囲は広がって山梨県西部・小渕沢まで来ている。
営業所で受注すれば、担当させられる。悲しいかな文句は言えない。

優樹「今担当している別荘の1棟を、社員価格で言いってくれてるんだけど、どうかな?」

美愛「こっちに住むんなら良いけど、最終的には茨城に帰るんでしょ。」

優樹「親も早く子供連れて、田舎に帰って来いって…。飯島常務には、茨城の営業所への転勤は話してあるけど…。」

美愛「そうでしょ、それに別荘って、掃除や管理が大変って、聞いたこと有るわよ。」

そう、確かに美愛の言う通りで、普段住む住宅と違い、年に数回しか来ない別荘は、行けば掃除、帰りも掃除、住まないのに管理費は住宅と同じ、高原の気候は建築に厳しい、当然劣化も早い。
結局、この話は立ち消えになるが、買わなくて正解だったかもしれない。

白州のSウィスキー蒸留所を見学したいという美愛を見学者用エントランスに下ろして、優樹は現場へ向かう。
Zを遠く離れた所に停め歩いていく、流石にこの派手な車では、現場に乗り入れるのは、憚れる。
現場は開発されたリゾート用地にある。この現場も遅れ気味で、地元の建設会社も忙しいらしく、職人さんがなかなか確保できなく、苦労している。
この分だと、東京から応援部隊を入れないと、いけないようだ。

現場を一通り確認し、打ち合わせが終わると、美愛を迎えにウィスキー蒸留所に戻る。
見学、テイスティングは終わり、団体客も帰っており、一人残った美愛はガイド嬢とロビーで何か話している。

優樹「何話してたの。」走り出した車の中。
美愛「最近、見学客が増えているって、でこっちへ別荘持つ人が増えてるって言ってた。」

バックミラーを見ていた優樹が言う。
「流石、Sトリーだ。」

美愛「どうしたの?」

優樹「彼女まだ立って見送ってるよ。」

美愛、振り返り「姿が見えなくなるまで、見送るのね。」

二人は彼女のプロ意識の高さに驚き、その後Sトリーの隠れファンになったらしい。

今晩はリゾートホテル八ヶ岳に予約を取っている。
未だハネムーンに行っていないので、その代わりでは無いが、半年に1度は、そういう所に泊まっている。
別に、美愛が言ってる訳ではなく、優樹がそうしたいらしい。

因みに有名なイタリア建築家のマリオ・ベリーニが設計したリゾナーレ小淵沢が完成するのはその8年後である。

ホテルは二人が満足するサービスで、美愛は気に入ったようで、又来たいと言っていた。

それにしても、昨晩の美愛は激しかった。
最近どうも、こちらの方面でも劣勢になってきている。
どこかで挽回しないと、不味い…と優樹は、帰路Zのハンドルを握りながら、助手席美愛の穏やかな寝顔を見た。

1984年4月に、青梅営業所から神奈川県相模原・橋本にある、相模原営業所へ転勤となり、住まいを八王子・高尾に転居した。新居は京王線高尾線高尾駅に近い、終点の高尾山口まで一駅で、登山にも便利だという理由で、決めた。ちょっと広めの2LDKのマンションにした。

優樹「1年でまた、転勤ですまないね。」

美愛「しょうがないわ、ゆーちゃんの所為じゃないから。」

優樹「主任だって。」

美愛「おめでとう、お給料も上がる?」

優樹「少しだけど。」

美愛「そう、頑張ってね。」

優樹「飯島常務に話して、借り上げ社宅の家賃は1割負担にして貰ったから。」

美愛「助かるわ、財形貯蓄に回す額を増やそうね。」

後にバブル景気と言われる、好景気がそろそろと二人の周りにもなんとなく感じられる様になってきた。
が金融機関で働く美愛は、かなりシビアな家計をこなしていた。それは「甘い生活」というより「渋い生活」になってきた…

それが、1984年初夏の出来事だった。

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