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[恋愛小説]1981年の甘い生活...10/嬉しい知らせ

翌週、町田のボルボディーラーに入る美愛と優樹。

如才ない営業マンが近寄ってくる。
営業「どのようなお車をお探しでしょうか?」

愛美「家族が増えるので、5人とワンちゃん3匹が乗れて、キャンプ道具や登山道具が沢山積めて、事故っても死なないクルマが欲しいんですが。」

営業マン「それでは、こちらのボルボ240エステートは如何でしょう。エアバック、ABSが付いて、安全性は最先端です。荷物も沢山詰めますから、ご希望通りだと思います。」

美愛「エアバック?AB..って、何?」
1986年当時、安全性能では最先端を行き、荷物も積める。それらの説明を聞いた二人は、これしかないと即決した。

希望色のレッドは在庫があるというので、翌月納車になった。

翌月、高尾のマンションの前に赤いボルボ240エステートが納車された。
一通り説明を聞いた二人は、近所をドライブすることにした。

愛美がハンドルを握り、甲州街道を西に向かう、狭いワインディングロードを1時間以上走り、大垂水峠を超え、相模湖湖畔の駐車場に着く。

240から降りて、二人湖を見ている。

足下には、愛犬 萌奈が鼻をクンクンしている。

愛美「アクセルペダル、重い。踏んでもクルマ先へ行かない。」

優樹「北欧のクルマだから、雪道が基本で、スリップしないようになっているって、営業が言ってた。」

愛美「へー、そうなんだ。飛ばす気にはならいよ、このクルマ。」

優樹「240は納車されたし萌奈ちゃんも居るし、もう無いよね。」

美愛「うふっ、実はもう一つあるの。」

優樹「えっ、まだあるの?何?」

美愛「あかちゃん。そろそろ、良いわよね。」

優樹「ニュージーランドでもずーと、頑張ってたんだけどね…。」

美愛「まだ、ゆーちゃん、の努力が足りないと思う。」

優樹「えー、頑張っているんだけどな…。」

美愛「まだまだよ。」

優樹「…。」

美愛「さっ、あそこで、頑張るわよ…。」

美愛が指さしたのは、対岸のお城の様なホテルだった。

優樹「…えっ、あそこ?」

どこから、どう見ても、美愛の尻に敷かれている優樹だった。

1987年1月下旬 現場の途中で、自宅に寄り昼飯を食べた、優樹。

食事後、美愛が前に座った。

美愛「午前中に病院へ行ったの。お目出度だって。」

優樹「…。お・め・で…た…。」一瞬、優樹はその言葉の意味が分からなかった。

美愛「….。」

優樹「えっ、えっ、ホント!」

うんと美愛、うなずく。隣で萌奈が仰向けで、おへそ天々している。

この時の気持ちは、一生忘れないと思った。

自分に子供が出来る。父親になる。

今までのいろいろと嬉しいことは有ったが、これは全く別な喜びだった。

1981年に結婚して、6年。ある意味、結婚生活というより、独身時代の延長で来たような期間だったが…漸く。

その日、優樹は仕事中もズーとその事を考えていた。定時でいそいそと帰宅したのは言うまでも無い。

美愛は信用金庫との約束通り、妊娠を契機に辞めていた。

5月、帰宅すると、美愛の表情が暗い。

優樹「どうしたの?」

美愛「今日、定期検診で早産の可能性があるから、入院するように言われた。」

優樹「…いつから?」

美愛「早いほうが良いって…。」

翌日から美愛は産婦人科病棟へ入院した。優樹は、仕事の合間を見つけ、毎日病院通いをし始めた。
萌奈は茨城の実家に預けた。

それが1987年5月の出来事だった。



ご愛読いただきありがとうございます。

 [恋愛小説]1981年の甘い生活、はこれで完了となります。
拙い小説を読んで頂き、感謝しております。
小説なので、実際の名称や人物とは、関係ありません。あくまでも架空の名称、人物です。
また、6/21(金)より 第3部 [恋愛小説]1989年の憂鬱 を掲載します。
また7/11(木)から[恋愛小説] 1974年の早春ノート を掲載予定です。
お楽しみに。

[小説]1989年の憂鬱… 各章タイトルと公開予定日
1.ブルーライト横浜      ^6/21
2. 二次会           ^6/22
3. 長男幸太誕生と古民家再生 ^6/23
4. 水戸へ転勤         ^6/24
5. それぞれの家族       ^6/25
6. GT-R            ^6/26
7. 美愛の憂鬱再び       ^6/27
8. 後悔と憂鬱         ^6/28
9. 二人の時の重み       ^6/29


以上 よろしくお願いします。


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