見出し画像

[恋愛小説] 1974年の早春ノート.../1. ダンスは踊れない

あらすじ
1974年の秋 水戸の女子高の学園祭で、高三の 優は美しい女子高生 泉から逆ナンパされる。男女交際が二人とも初めてで、ぎこちなく交際を始めるが、優は泉から影響を受け彼女の為に、生きていこうとする。
福田優は前作の主人公:福野優樹とは別のキャラクターです。

「明日、フォークダンスがあるんですが、踊ってもらえませんか?」

福田優は、一瞬何を言われたのか理解できなかった。
頭の中で、その言葉を反芻した。

「明日、フォークダンスが…、踊って…….」

そう言っていた。確かに。

優は、声を掛けてきたその娘を見たが、長い髪の綺麗な三高生がそこに立って、彼を見つめていた。

そしてそれだけ言うと、彼女は友達の元へ戻ってしまった。優の返事はいらない、明日来るわよね。と言わんばかりの態度で。

その友達はわーとはやしている。
何だ、どうなっているんだ?大体、こっちは、名前も何も聞いていないし…。狐に摘ままれているという、言葉の意味を初めて知る。



昨日クラスで仲が良い宮田靖が誘ってきた。
宮本靖「優、明日から三高で文化祭があるから、行かないか。」
優「良いよ。入るの初めてだよ。楽しみ。」

優が通う一高は水戸駅の北側に広がる舌状台地の東端部にあり、水郡線が通る崖の西向こう側に、その三高はあった。県立の女子校で殆ど女子だった。唯一音楽科があり、若干の男子はいたらしいが…。一高と三高は、その水郡線が通る崖で、隔てられていたので、隣同士といえ交流は全く無かった。
水戸の県立高校は一高、二高、三高、緑高、工業、商業があった。
1970年代、二高と三高は女子高で、優たちから見れば男子禁制・秘密の花園であった。その秘密の花園へ入れる、正に千載一遇のチャンスであった。

その後、彼女が、何を話したのか、何を言ったのか全く覚えていない。
隣では、宮本がニヤニヤしていた。

宮本「何て言ってたんだ。」
優「良く分からない。フォークダンスがなんだかんだと…。」
宮本「やったな。びっくりしたな。」
優「…ああ。」

確かに優も宮本もガールフレンドがいないので、物色しに来たのだが、まさか、逆ナンパされるとは、夢にも思わなかった。少し複雑な気持ちだった。これで良いのか。

宮本「いいなー、明日来るんだろう?」
優「でも俺踊れないよ、フォークダンス。」
宮本「えっ、ああ、優、井場中だもんな。」
優は、私立の男子中学校・井場中出なので、フォークダンスは一回もしたことがない。踊れないのである。ラグビーのスクラムは組めるが…。

優は自宅へ帰る、電車の中で、どうしたものか、ズーと考えていた。いつ家に着いたのかも覚えて居ない。

困った、彼女に会いには行きたいが、ダンスは踊れない。一晩そのことばかり考えていた。結論は、ダンスはともかく、行って彼女に会うことが大切だろうと考えた。踊れないのは、自分が悪いのでは無く、男子校が悪いのだから。そう考えると少し気が楽になった。

それにしても、あんな綺麗な子が何で自分を誘ったのか、訳が分からなかった。大体、逆じゃ無いかと…最近の女子高生は何を考えているんだか…。

翌日、昼頃一人で三高へ行った。宮本は誘えなかった。昨日帰るときも彼は元気がなかったし..。
いきなり彼女がいる教室へ行くのも、なにか下に見られそうなので、2階からさり気なく順番に見ていったが、何を見ていたか覚えていない。
少し緊張していたかもしれない。

3階の彼女が居る教室へ行こうと廊下を歩いていると、向こうから当の彼女がこちらへ歩いて来るではないか。
向こうも気がついた様で、立ち止まり待っていると、彼女が近づいて軽く会釈をする。

優「ちょっと早いけど、来たよ。」

泉「うれしい、来てくれなかったらどうしようと思っていたの。」

優「あの、フォークダンスなんだけど、自分踊れないんだ。」

泉「…どうして?」

優「男子中だったんで…。」

泉「えっ、じゃ井場中?」

優樹「そう、井場中。」

泉「へー、そうなんだ。」

それから、泉が校内を案内するというので、二人で歩きながら、話をした。
二人が並んで歩いていると、彼女の知り合いらしき数人が、にこにこしながら泉に目配せして通り過ぎた。

案内された校内は、普通の県立高校であり、それより泉は優を連れて
「この人は、私のものよ。手を出さないで。」と
全校に触れ歩いているのでは、無いかと思われた。

その後、優を見る三高生の目は少し違ったように思えた。
「ああ、あの人は泉さんの男だから。手を出しちゃだめ。」と。
それは優の思い過ごしだったのか..。

優「ところで、あの、自分の名前は福田優。ふくは大福の福。田圃の田。ゆうは優しいの優。」
泉「私は、坂井泉。坂道の坂。井戸の井。泉は、水が湧き出る泉ね。」
優「良い名だね。泉さんか。」

最初は、どんな話題を話そうか、心配したが、そんなことは無用だった。二人とも、普通に話していたし、今日初めて話すという、ぎこちなさや違和感は無かった…少し緊張はしていたが。

後で、優は泉が、三高でベスト3に入る女子高生だと友人達から言われた。

それが、1974年10月の出来事だった。


第1部 登場人物
福田優    :水戸の進学高校の3年
坂井泉   :水戸の女子高生3年、優の恋人

坂井珠恵  :泉の母
坂井耕一  :泉の亡父
宮本靖   :優の高校の友人
山本小百合 :水戸の女子高生3年、泉の友人
福田靖   :優の父
福田千里  :優の母


タイトル一覧と公開予定日

第1部
1.ダンスは踊れない^7/4
2.小さな恋のメロディー^7/5
3.弘道館公園^7/6
4.クリスマスの夜^7/7
5.春の気配^7/8
6. 新緑の頃^7/9
7.夏の日々^7/10
8.インディアンサマー/ ^7/11
9.八王子って何処?/ ^7/12
10.雨のステーション/ ^7/13


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?