『鈴籾の子ら』ー新発田重家ー(『戦国の教科書』4限目 より)
タイトルだけみれば、ビギナー向けなのかな、と思える1冊
ところが、読んで見事に騙されたことを知る(笑)
玄人をも唸らせる短編が収録された、ガッツリ・クオリティなアンソロジー本、それが『戦国の教科書』
そのテーマについて書かれた短編集に始まり、テーマ解説があり、テーマを学べる他の本紹介(ブックレビュー)という構成。
日本史(歴史小説)初心者が入るにはやや難しいかもしれないが、飛び込んだら、その不思議な?魅力に引き込まれてしまうこと請け合い。
本書にて、その魅力を存分に感じ取れるはずだ。
ブログでは、本全体と各短編についての感想記事を更新した。
ただ、短編ごとについては、その感想をもう少し書きたいなあ、という思いから始まったシリーズ記事。
この記事は4限目の短編について。
テーマは戦国大名と家臣
収録作品は『鈴籾の子ら』(武川佑)だ。
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大事なものは、後になって気付く。
本当に守りたいものが目の前にあると知って、新発田重家は矛を収める決意をした。
しかし、時代は、待ってくれなかった。
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理不尽な最期を遂げた兄の死
そこから新発田重家の戦いは始まった。
土地のため、麦のため、そして誇りのため。
重家は上杉景勝を裏切り、新発田の地で独立する。
周辺勢力と程よい強力関係を持ち、上杉軍が来れば巧みな采配で圧倒していく。
兄が遺した鈴籾も育てるのに苦労しながら、新たな作物へ育っていく。
このまま状況を見ながら上杉と闘い続ける。
これまで、国人領主が選んできた道を、重家も進んでいくつもりだった。
しかし、天下の形勢が固まっていった。
重家は、自らの抵抗が故郷を守るどころか、作り上げてきたものを壊すことにつながると悟る。
そして、亡き兄の構想に気付いたとき、望むべき“豊かさ”を知る。
和議を受ければ、国造りができる。堤防を築き、干潟を耕作地とすることも可能だ
「来年の刈り入れが終わるまで、待ってくださいませぬか」
進行してくる上杉、その背後に控える豊臣家に重家は望みを託す。
願いは届くのか。
そして、足掻きの六年から生まれた“鈴籾”は実るのか。
故火坂さんを彷彿とさせる、美しく泥臭い稲穂の風景描写が切なさを誘う。
天下統一の陰に隠れた、滅びと希望の物語だ。
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