見出し画像

〔掌編小説〕ペトリコール



 ベランダから戻る時にふと、雨の匂いがした。どんよりとした空模様、まあ当然か、と思う。タバコとライターを机に置いてソファに座る。時計は14時半、休日のこの近辺は静かな空気が流れていた。閑静な住宅地とはよく言ったもので、聞こえる音の少なさは私の中の虚無感を煽る。
 堂々巡りの思考回路。私が期待したものは私が信じた気になっていたものでしか無かったようだ。これまでにもこうやって気付いてしまった事象に否定的な想いを巡らせた経験があるはずなのに、まるで反省していない。同じ事を繰り返す。ぐるぐるぐるぐる。何度考えても結果が出るわけじゃないのに、何に塗れてるかもわからない、ぐちゃぐちゃになった精神が悪い方向に向いていく。もう自分自身の思考の中にどういったものが蔓延っているのかも、すでにわかっていない。重たいヘドロのような感情だけが存在して、それが沈みゆく脳みそに圧力をかけていく。
 つらいな、と口から漏れ出た言葉で、私の中身を確認できた気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?