彩雲を見た日
苦味のないグリーンティーで暖をとっていた
マンダリンオレンジを食べた手はベタついて
座れるか座れないかほどの小さなバルコニーから
街並みを、空を眺めていた
坂を登って振り返れば光きらめく川、橙色の瓦屋根
ありあまる美しい風景に、美しさが何であるかもわからなくなる
海鳥が羽をつくろっていつまでも煙突にとまっている
鳥たちから見える世界はどんなだろうと想像する
人間のことなんて対して気にもせず、鳥は鳥のことばかり考えているか
実は私のような旅人を視界にいれているのかはわからない
ふとそこに彩雲があるのに気づく
最後に彩雲を見た日のことを思い出す
彩雲に気づけたこと
一息をついて空を見上げていてよかったと
ついまた得をしたような気持ちになる自分に嫌気がさす
ただ見つめるだけでなくそれを自分のものにしようと
ロッカーにしまったカメラを取り出す
強欲なわたし
レンズキャップが2階から道路に落ちてしまった
誰もそこにいないことに安堵しながら、いたら大変だったと思う
車に踏まれないかと、誰かに踏まれないかと心配する
レンズキャップひとつの値段がいくらであったかな、と脳裏に浮かびながら
彩雲が消える前に、とシャッターを押す
取りに行って2階へ戻ってきたら
つい10分前に倒さないようにと思った開けたままのボトルを倒してしまい
大急ぎでトイレットペーパーを取りに行く
惑わされているうちに
つぎに空を見上げたときには消えていた
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