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飛び立ちの窓辺

さみ(いいづかあさみ)

外は暗い
窓に写るわたし
便座みたいな形のふくらんだクッションを首に装着して
コンタクトレンズも外して眼鏡をかけた
着圧ソックスもはいた

いざ。

うすよごれているのか、くもっているのか
窓ガラスを通した夜の空港の光はぼんやりとして
もやもやとしたわっかがひとつずつ付いている

座席はちょうど翼のうえだ

機体はゆっくりゆっくりと滑走路までの道へ向かっている
時計を見れば出発から20分が経っていた
飛び立ちまでのこの時間に、旅のはじまりという最初の旅情がやってくる


サウダージ
ポルトガルのことばを思い出す
遠くにいる人を想う郷愁のような気持ちのことだったか

大陸の西の果てに立ち、どんな景色を想うだろうか


関東平野の無数の光が乗客たちを見送っている
その中のいくつかが、わたしの大切な人が灯す光だ

今夜は月も近い
月明かりは翼の前方に反射している
月がすぐそばのなにかを照らしていると気づくとき
暗い暗い田舎道を歩くときを想う
今日の月が明るいと気づく日はそう多くはないから

機体が右へ傾くと光で描かれた海岸線が見えた
ゆっくりゆっくりと夜の空をのぼってゆく



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