ともだちの転職話
私は高校の頃に色々あって、それで大学に行けずに専門学校へ行った。
「ジュエリー」だ。
宝飾関係の仕事に興味などなかったのだが、「親の再婚相手のパキスタン人の親戚が持つ山で原石が取れる。」との理由で送り込まれた。
ウケる。
他にもやりたくない理由は山ほど挙げられる。
・少子化による婚姻数の減少でマリッジリング市場の縮小。
・バブルでもない節約社会における、高級な宝飾品に惹かれる女の減少。
・ものづくりのくせに大量消費が求められない資本主義との相性の悪さ。
誰が宝飾品を買うの?と思ってしまうのだ。
もちろん買う人はいるだろうけど、もし私が買う立場ならハイブランドで一生身につけるものを買いたい。
大量消費で成り立つ資本主義社会において「減らない」宝飾品は捌けない。
ジュエリー業界の破滅は容易に想像ができるんだよ。
ともだち、会社やめるってよ
私は専門学校に入学してすぐに婚活をしたから「私」と「ジュエリー」との道が2009年に別れた。
あれから15年経った時、そう友だちが言ったから、話を聞いたんだ。
「この前お母さんに、高いお金だして留学させてくれたのに辞めることになってごめんね。って電話したんだ。
台湾から日本に来たけど、給料が安くてもう無理だよ。
10年以上働き続けて、月25万。
この先、投資もしたい、老後も考えてる。
独身だからギリギリまで働くつもりだけど、でもコレだと何もできない。
私、もう40歳になるんだよ。
だから、社長に給料交渉したんだ。
そしたら断られた。
まず会社が儲からないと上がらないって。
対応にもガッカリして失望した。」
円安だし台湾の方が給料高そうだが、戻るのにもお金がかかるし、まだ日本で頑張りたいらしい。
きっと若い時は夢を抱いて日本に来てくれたんだ。
台湾は親日だからなぁ。
「次はゲーム業界に入るの。
私、何か資格とかを持ってるわけではないし、ずっとジュエリーに居たから面接練習のつもりで受けたら、採用された!
でもね、私と一緒に給料に怒ってた日本の同僚は留まるんだって。
ひとりはシングルマザー。
3人の子どもを1人で育てあげてさ、50代なの。
その人は、家事と育児と仕事に追われていたから持ってる資格がない、年齢的に無理だ、今の仕事よりいいところなんてないって言ってた。
3人子どもいるのに養育費ももらえなかった。
でもそのお給料。
もう1人の人も似たような感じで、給料に不満はあるけど留まるみたい。
色々おかしいよ!」
Cちゃん
「伝統工芸師のおじいちゃんを持つCちゃんも、家業を継ぐのをやめたんだって。
一人娘で婿養子とったけど、Cちゃん本人と親との関係が悪くなっちゃったみたい。
一時期家業に入った夫さんはサラリーマンになったし、Cちゃんは本当は保育士になりたかったんだって。
なりたくないものをやってたからか、宝飾系の事業継承のプレッシャーからか、彼女は体調がずっと悪かった。
それでほら、妊活してやっと子どもがうまれてさ、本当可愛がり方がすごいんだよ。
私、独身だから毎週子守りとちょっと部屋を片付けしにCちゃんちに会いに行ってたの。
日本って、親とか夫が子どもの面倒見る人、少なくない???
それだと女の人、動けないじゃない??」
たしかに、私もおそらくCちゃんも、親の手を借りずに子を育てている。
台湾のともだちが助けてくれてありがたいだろうな。
私が若い時に産んだ子を一緒にお世話して助けてくれたのは中国の友だちだった。
その時の恩は忘れてない。
産後はいい記憶も悪い記憶も、1番大変な時だから忘れないんだよ。
海外の人って「子」に対する関わり合いが「個人任せ」ではなく「社会」という認識なのだろうか。
道ゆく母親への声かけも、ベビーカーの外出手伝いも、知らない人だろうがガンガンやってくれる。
それが友人ともなると、本当にお家に来て助けてくれる。
女は集団で子育てをしたい生き物だから、私は中国の彼女の行動がありがたかった。
だから私も彼女たちをサポートしたいと思うのだ。
台湾のともだちは、きっとこれからうまくいくと思う。
沈む船に掴まってはいけないからね。
長く働いた人が交渉したり、発言したり、もっと給料が高いところへ抜けることによって、会社は痛みを経験する。
そうしないと給料なんて上がらないんだよ。
日本は経営者が強いけど、労働者無くして経営なんてできない。
彼女が声をだして実行したことで、経営者やその元で働く人は何かを感じるだろう。
彼女が選んだ転職先もいいと思う。
モノが行き渡った現代で消費は娯楽に向かう。
お金が集まるところに身を置くと運が良くなるから、先を読んで上手く時代の波乗りサーフィンしてほしい。
おまけ
さて、そうやって見切りをつけてられてどんどん人が外に出てしまった後になっても残ってる会社や人が一流になるのだ、とも思う。
ずっとそこに居続けることは思いの外難しいからね
その先にある夢と現実と時間の天秤はちょっとのバランスですぐに傾く。
残るのも移動するのも各々の選択だ。
自分の人生の時間を何に使うのか。
「私は死ぬ前に、楽しかったなぁと思い出せる記憶を作ってるんだよね。
だから今日のこの写真をあげるね。」
そう言って笑顔で映った彼女の写真を一枚、手渡した。
人生の転機を祝えて嬉しいな。
どう生きるのかを問いながら今日も笑おう
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