見出し画像

[第11回]竹鶴政孝先生による1927年当時のウイスキー工場用地選定の条件をいま考える ~私が小規模蒸溜所を興すべき場所のヒントを探して~ ☆ウイスキーと科学と数字☆

こんばんは、A Whisky Studentでございます。
タイトルが長いですね。
今回科学要素薄いかもですが、数字はあるし昨日8/29は敬愛する竹鶴政孝先生の命日だったということでこの内容にします。(私が極小規模のウイスキー蒸溜所を興すべき場所の結論に至るまでを加筆更新 2024年6月5日)

7年ほど前でしょうか、当時アサヒビールさんでウイスキーのアンバサダーをされていた箕輪様から「竹鶴は元々江別に蒸溜所をつくろうとしていたんですよ」と伺ったことがあります。
そう、あまり知られていませんが実は竹鶴政孝先生は北海道でのウイスキー工場用地として、はじめは江別を考えていたのです。

上リンク先の記事の中にある大学ノート「Wine.oct.1917」中の1ページ分の写真にある文字の内容を私で可能な限り読み解くと、以下のようになります。
(あくまでも私見ですので、誤り等お気づきの際に教えて頂けましたら幸いです)

『昭和二年十月(一九二七年)
北海道にウイスキー工場を建設するにあたりて。
記 大阪府ウ山崎 竹鶴政孝
一、ウイスキー工場を北海道石狩國江別に定む。
特長、江別に撰擇の理由
(a)北海道には原料大麦を産す
(b)北海道には燃料石炭の産多し
(c)石狩川の上流河畔に特掟燃料「ピート」を産す
(d)気候冷涼にして年中作業をなし得 拠つて生産費を安価なしむ
(e)「雪どけ」の水 石狩川の流水は安定 ウイスキーの仕込水に適し其の量尽きず
(f)江別は大都市札幌より鉄路にて分にして至り 交通便なり
(g)石狩川に依り廃液の処分に便なり。
(h)酵母はサッポロビール会社より得らる。
工場敷地五百坪(一坪五円)
会計金二千五百円也

竹鶴政孝先生によるこの大学ノート執筆から一世紀近く経過している2023年現在の状況で、(a)~(h)の条件はどうなっているのでしょうか。

(a)原料大麦 北海道は麦栽培の適地であり、現代においても子実用麦類の収穫量で都道府県ランキング1位です。二条大麦の収穫量は5位で、ほとんどがビール用に栽培されているものです。小麦では圧倒的に北海道が1位で、総量の6割を占めます。小麦は比較的簡単に二条大麦への転作が可能とされ、小麦栽培の実績があれば二条大麦栽培をしてそれをウイスキー原料に用いる道も拓け易いと考えます。札幌近郊では小麦が栽培されている市町村は多く、特に当別町(3320ha)・江別市(1550ha)・千歳市(1500ha)・新篠津村(1480ha)・石狩市(1170ha)・恵庭市(765ha)で盛んです。
(データはすべてGoogle検索で自治体名+小麦+栽培面積で検索したもの)

(b)燃料石炭 1927年なら蒸溜の熱源はほぼ石炭一択だったと思いますが、2023年現在は蒸気ボイラーが主流になっていますし、北海道における石炭採掘はもう一箇所だけ。石炭といえば現在はほとんどが輸入となっています。
余市蒸溜所のようにどうしても石炭を使用したいという拘りがなければ、現代において石炭は気にしなくてよい条件だと考えます。

(c)ピート(泥炭) 北海道では石狩川、釧路川、サロベツ川流域に広く泥炭が分布しています。特に石狩川下流域は厚い泥炭層が広く分布しており、札幌市北部/東部、石狩市、当別町、新篠津村、江別市、北広島市、さらに空知支庁の南西部が該当します。

(d)気候 地球温暖化は進んでおりますが、北海道は本州に比較して涼しいです。当時と違いクーラーもあります。夏場の作業は問題ないでしょう。あまり気にしなくてよい条件だと考えます。(問題は冬......)

(e)雪解け水 雪解け水があるため北海道全域で水が良質で豊富と言えるでしょう。酒造りに適する軟水が多いのも北海道の特徴です。まあ、私が考えている小規模であれば量の心配もなさそうなレベルです。

(f)交通の便 当時と比較して道路整備が進んでいるため、札幌近郊の都市は交通の便は良いと言えるでしょう。鉄道が通っていれば尚良いです。物流、人材確保、消費などの面で札幌への交通の便の良さが活きてくるでしょう。
札幌近郊で鉄道駅がある市町村は、小樽市・恵庭市・北広島市・江別市・当別町です(情報誤っていたら是非教えてください(切実))。

(g)廃液処分 当時はなかった排水規制が出来るなど廃液については厳しくなっておりますが、規制対象は「1日当たりの平均的な排出水の量が50立方メートル以上である工場又は事業場に係る排出水」です。基本の排水基準値はほとんど全国共通ですが、自治体の処理能力により受け入れ可能な量とBOD濃度が異なるためケースバイケースで要相談の面もあります。私が考えている小規模であれば場所がどこであれあまり心配もなさそうな気がします。

(h)酵母 当時と違い現在はディスティラー酵母を購入して使用するのが一般的ですが、クラフトビール文化が広まっているため近場のクラフトブルワリーから新鮮な廃酵母を手に入れるという道もあるかと思います。この点に関しては、物流の発達した現在であれば蒸溜所の立地はあまり関係ないかもしれませんが、(以下加筆時2024年6月現在稼働中の)札幌近郊のクラフトビールのブルワリーは、札幌市・江別市・当別町・北広島市にあります。

まとめると、
1927年当時の江別のように、『札幌近郊市町村で、麦の栽培実績があり、泥炭があり、ビール工場が近くにあり、鉄道があり、水が良いところ』は、2023年現在においても、私が考えているような小規模ウイスキー蒸溜所の立地についても好適と言えると考えます。

これらにあてはまるのは、
江別市・当別町・北広島市です。
(北広島市は小麦の栽培面積は34haと少ないですが)
水道水はいずれも酒造に向く軟水で、硬度を比較してみると、江別市が約70mg/L(令和4年度)、当別町が約15mg/L(令和3年度)、北広島市が約24mg/L(令和5年度の平均値)、となっております。

私がやろうとしているのは極小規模のウイスキー蒸溜所なので、規模の小さい自治体で行うほうが、おそらく向いているのではないかと考えます。

さあ結論です!!
1927年に竹鶴政孝先生が考えた条件で現代に通じるものを満たす自治体のうち、もっとも麦の栽培が盛んで、もっとも自治体の規模が小さく、もっとも水が軟らかい「当別町」が私の考えるベストプレイスです。
今後は、私が極小規模のウイスキー蒸溜所を興す場所は、当別!!
実現を目指して活動してまいります。

☆☆☆☆☆パラメータと参照・引用元☆☆☆☆☆
※1 読売新聞オンライン「竹鶴政孝、幻の江別蒸溜所計画〜理想のウイスキー、夢の続き(上)」
https://www.yomiuri.co.jp/life/food-column/20201029-SYT8T3721175/
※2 農林水産省「令和4年産麦類(子実用)の作付面積及び収穫量」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/sakkyou_kome/mugi/r4/index.html
※3 Google検索「北海道 泥炭 分布」
https://www.google.com/search?q=北海道+泥炭 分布
※4 地質調査総合センター サイト内論文「右狩平野篠津泥笈地の地表下堆積歌態と泥炭:地地下水の水質」
https://www.gsj.jp/data/bull-gsj/07-09_02.pdf
※5 環境省「一般排水基準」
https://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html
※6 Beer Cruise「北海道 クラフトビール一覧」
https://beer-cruise.net/beer/Hokkaido.html
※7 江別市水道部浄水場「令和4年度 水道水質検査結果」
https://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/uploaded/attachment/62759.pdf
※8 当別町「令和3年度 当別町上水道水質検査結果」https://www.town.tobetsu.hokkaido.jp/uploaded/attachment/20284.pdf
※9 北広島市「水質検査計画と水質検査結果」https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/hotnews/detail/00000861.html
 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?