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父の小父さん

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2018年10月の記事一覧

父の小父さん 作家・尾崎一雄と父のこと12

父の小父さん 作家・尾崎一雄と父のこと12

人の運命というものは、あみだくじみたいなものでしょうか。この世に生まれるところから始まり、折々の岐路で選択しているような気でいますが、あらかじめ決まった道を我知らず進んでいるのかもしれません。東京大空襲の日、学童疎開していた父一人が生き延びたことを思う時、そんな思いにとらわれます。父が生き延びなかったら、母との結婚はもちろんなく、私も存在していませんでした。家族皆が助かったとしても、やはり、同じこ

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父の小父さん 作家・尾崎一雄と父のこと11

父の小父さん 作家・尾崎一雄と父のこと11

父の一家が深川に引越しした頃から戦局が悪化、様々な統制とともに、学童疎開も始まり、慌ただしかった時期、尾崎さんの身辺では、尾崎さんの作家人生における一大事が起きていました。尾崎さんは、そのあたりのことについて、様々な作品で触れているのですが、ここでは『末っ子物語』から引用してみます。

昭和十九年、夏から秋に移ろうとするころ、大きな不幸が多木一家を襲った。ここ一、二年来、とかく不健康がちだった多木

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父の小父さん 作家・尾崎一雄と父のこと10

父の小父さん 作家・尾崎一雄と父のこと10

父の子ども時代の話には、しばしば書生さんが登場します。伊豆の親類縁者から、大学に通う子供を託されることが多かったようですが、近くの美大生を預かることもあって、さてどんなツテだったのか、もう少し詳しく知りたいところです。美大生らは、父の母や兄をモデルに、油絵や彫刻を制作しています。

それにしても、父の家は家族五人と女中さん、それに加えて常に書生さんがいる環境で、しかも結構頻繁に親類が上京しては宿泊

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