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道端に落ちたものから広がる世界④〜シャツとズボンと靴〜

車を運転していると高い頻度で出くわすのが、車道に落ちた片方の靴だ。
殆どは運動靴で、少し汚れている。仕事終わりに靴を脱ぎ、サンダルなどに履き替えた後、トラックの荷台などに置いてあったのが落ちてしまうのだろうか。落ちる現場を見たことがないので想像の域を出ないが、勝手そう思っている。

先日、交通量の多い国道を走っていたら、いつものように汚れた靴が落ちていた。ああ、また靴か。と、思いそのまま走ると、数メートル先にもう片方の同じ靴が落ちている。お、今日は両方揃っているパターンか、と思うや否や、そのさらに数メートル先には同じ汚れ具合のTシャツが落ちている。

きっと同一人物のものだろう。だって、同じ汚れ具合だし。それにしても、靴にTシャツ。ということは、今それを着ていた人は、上半身裸でサンダルでも履いているのだろうか、と想像しかけた時、道の先に落ちているものが視界に入った。ベルトのついたままのズボンだった。

Tシャツと同様に、上から落ちたという感じではなく、そこで脱ぎましたという感じがする落ち方だった。両手をばってんにしてシャツの裾を持って上に向かって脱ぐ。そして、ベルトを外してズボンを下ろす。そのほやほやの感じで車道に落ちている。しかしここは、交通量も多い。悠長に道路で脱ぐなんて危険すぎる。どうやってこの形になったのだろうか。

ふむ、つまり今あの服の持ち主はパンツ一丁だ。仕事の後、パンツ一丁で車を運転しているのだろうか。やったことはないが、すごく開放的な気持ちになりそうだ。窓でも開けたら、風を全身に浴びることができる。きっと気持ちがいいだろう。でも、今日は日差しが強いから、サングラスは必須だ。パンツ一丁で、サングラスか。なかなかインパクトがある。もしそんな人が信号待ちで隣に来たら、絶対にそちら側の窓を開けないだろう。

道端に落ちている一式のコーディネート。みんな避けながら走っている。わざとそこに置いてあるのか、それとも落としてしまったのか。その真偽は分からないけれど、そこには服を着ていたであろう人の気配が漂い続けていた。本来なにもないところに人の気配を感じると、やっぱり少し不気味である。だから、みんな、避ける。その様子がさらに、人の気配を増量させるのであった。


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