PEN-Fという名機
前回のPEN-EEに続いてPEN-Fについて語ります。
ソースは比較的浅く、諸情報からの推論が主な内容になっておりますのでご注意ください。
とても長いので最後の作例だけでも見ていって下さい。
1.PEN-Fの登場
OLYMPUSより世界初のハーフサイズ一眼レフであるPEN-Fが発売したのは1963年。
ハーフサイズカメラの火付け役となった初代PENが発売したのは1959年。
その2年後の1961年に自動露出撮影を搭載したPEN-EEがさらなる大ヒットとなり、PENシリーズは大衆カメラとして不動の地位を築くことに成功します。
PEN-Fが登場した1963年は、家庭にテレビがあるのが珍しくなくなり、アニメ鉄腕アトムや大河ドラマのシリーズがスタートするなどテレビ放送が大変盛んになった時代であり、1964年の東京五輪にはカラー放送の一般化を目指し、高度経済成長期の日本は活気に満ち溢れていました。
しかしながら、世界は冷戦時代であり、ベトナム戦争真っ只中でした。ケネディ大統領暗殺事件のあった年でもあります。
まだ、人類は月には行っておらず、戦乱の火は消えないまま不安定な状態でした。
さて、そんな時代に生まれたPEN-Fは世界初のハーフサイズ一眼レフです。
一眼レフ最大の利点は、実際に撮影される像をファインダーで確認できるということですが、意外とその歴史は古く、1940年にはこの世に登場していました。しかし、黎明期の一眼レフはシャッターを切った後のブラックアウトの時間が長いなど、様々な課題を残しており実用性には乏しく、ごく一部の利用目的にのみ留まっていました。
それでも、一眼レフが構成的に優れたカメラであることは明確であり、レンジファインダーではライカなどに後れをとった日本メーカーは一眼レフの実用化による起死回生を狙います。
そのためには、クイックリターンによる素早いミラー開閉、ペンタプリズムによる正立正像(鏡のように反転しない)、自動絞りの技術開発が必要でした。
そしてそれらの課題を解決して登場したのが、1957年の旭光学のアサヒペンタックスであり、その2年後の1959年にはNikonFが発売され、日本のカメラメーカーが世界に先んじて一眼レフの実用化に成功しました。
日本の一眼レフカメラは世界中で大ヒットとなり、1966年に来日したビートルズがPENTAX SPを買いに行ったというのは有名な話です。
とは言えまだまだ二眼レフやレンジファインダー機が主力の時代ではありました。
OLYMPUSもPENの成功もあってカメラメーカーとしての地位を築いていましたが、本格的な一眼レフ開発には踏み出しませんでした。OLYMPUS初の一眼レフシステムは10年以上先の1972年まで待つことになります。
それでも、世間の一眼レフの世界的なヒットの波を受けて、PENで一眼レフは作れないかという機運が高まります。
そして、天才技術者米谷美久氏の独創的なアイディアが注ぎ込まれたPEN-Fが開発され、1963年に世に送り出されるのです。
2.小さな一眼レフ
後にOLYMPUSはOM-1を世に送り出し、世界を一眼レフを小型軽量化の波に飲み込み込むわけですが、PEN-Fはそれよりも小さいです。
・PEN-F :幅130mm高さ70mm厚さ45mm
・PEN-EE:幅115mm高さ72mm厚さ45mm
EEはレンズ込み、Fはボディのみだということを差し引けば幅15mm以外ほぼ変わりません。
小型を売りにしていたPENTAX SPを測ってみても幅140mm高さ95mm厚さ50mmと、一回り以上小さいのがわかります。
トイカメラの類を入れると世界一ではないかもしれませんが、最小クラスの実用一眼レフであり、レンズがなければジーンズのポケットに納まるPENのサイズ感をしっかりと継承されています。
3.独創的な機構
筆者の持っているPEN-Fは元々不動のジャンクでしたので、分解して中身を一通り見ています。
ど素人ながらも、これまで30種類はカメラを分解していますが、PEN-Fの中身に似たものを知りません。
PEN-Fの特徴は3つ
①三角頭を持たない
②横倒しのミラー
③ローリングシャッター
どれも一般的な一眼レフにはない特徴であり、すべてはハースサイズカメラであるという点に直結します。
一眼レフで最もスペースを割いているのは、レンズを通った光をファインダーに導く機構です。
レンズから来た光をファインダーに導くミラーは、シャッター目の前にあるわけですから、シャッター幕の開閉時には、その位置から退く必要があります。ミラーの開閉はシャッター幕の開閉より早すぎても遅すぎてもいけません。
一般的な一眼レフは、ミラーの動作機構をカメラ正面から見てレンズマウントの側面に設置されています。(レバー式クイックリターンなど)
しかし、PEN-Fはハーフサイズカメラの縦構図になるため、必然的にミラーが横倒しになることで、カメラ底面の向きにミラーの動作機構を持って来ることが出来ました。
また、ミラーを横倒しにしたことで、レンズから通ってきた倒立逆像(反転逆さま)を正立正像に変換するためのプリズムの配置をボディ内に持ってくることが可能となり、一般的な一眼レフに見られる三角頭をなくすことに成功しています
しかし、ボディ内にプリズムを持ってきたことで、通常のシャッターユニットは搭載するスペースがなくなりました。
そこで、チタン製の円形の板を切り描いた(半円)ものを回転して露光するローリングシャッターを採用し、一般的な横走り布幕シャッターよりも省スペース化に成功しています。
ミラーを横倒しにする必然性から、一石二鳥、一石三鳥に変えてしまう天才的な発想により、PEN-Fは極めてコンパクトなボディにすることに成功したわけです。
目で見るPENの独創性
PEN-Fの独創性は底面の機構だけ見てもよくわかります。
-ネジを2本外すと底蓋が簡単に外れますの、是非自己責任でこの動きを見て欲しいです。
巻き上げてシャッターを切ると、銀色のレバーがスライドします。
写真で見る位置から見て左方向にスライドした先にシャッターのバネを解放するスイッチがあり、それを銀色のレバーの先端が拳銃の撃鉄のように叩きます。
また、銀色のレバーはミラーの開閉と自動絞りにも連動しており、それら動作は段階的に行われるわけです。
まとめると、銀色のレバーが、自動絞り→ミラー開く→シャッター解放をスライド順に動かすことで一連の動作を行っているわけです。
スライドした銀色のレバーは、スライドした勢いで逆回転したバネの力でミラーと自動絞りレバーを戻しながら、初期位置に戻る構造になっています。
このように、PEN-Fは二つのバネの力で動いているわけですが、その動作にやや粗暴ではありますが、突き詰めた合理性に美しさを感じます。
PEN-Fの故障
独創的なアイディアでコンパクトなボディを作る事に成功したPEN-Fですが、それが故障原因になっています。中古品を買う際には以下の点に注意したほうがいいです。
①シャッター速度不良
まずはシャッター速度不良です。バネの回転がそのままシャッター速度になっています。通常のカメラではギアの組み合わせでシャッター速度を調整しているのではなく、バネの解放によるエネルギーを制御する事で速度を調整しています。
バネがへたると最高速度1/500は遅くなり、低速はブレーキが効きにくくなることで速くなる不具合を抱えている個体が多いです。
シャッター全速変化と謳っていても速度が出ていないことが多いと思います。
②機構の摩耗
シャッターのバネもそうですが、バネの力で各部位を動かしているため、摩耗により動作不良が生じる恐れがあります。ミラーアップの問題はこのことが原因であること可能性があり、注油程度では直りません。他のカメラよりミラーアップの症状が重いです。
③プリズムの腐食
当時のプリズムはまだ黎明期で精度も良くなかったためか、接合部の腐食が多いです。
こればっかりは製造時の当たり外れによると思います。カビやゴミと思いきや清掃不可なことも多いかしれません。
PEN-Fの欠点
巻き上げレバーの重さ
軽快と書いている人も多いのですが。PEN-Fの巻き上げレバーでバネ2本を巻く必要があるため、巻き上げレバーはどうしてもジャリジャリした感触と重たさを感じてしまいます。
FTでは巻き上げレバーを長くしてトルクを稼ぎつつ、一回巻きにすることで改善しています。
個人的には、ゼンマイを巻いているようなフィーリングは嫌いじゃないです。
ハーフサイズであるということ
PEN-FがPEN-Fであるためには、ハーフサイズでカメラである必要があるわけですが、フィルム規格の小ささは画質に直結します。
現在のAPS-Cとフルサイズの面積差にも近く、大きく引き伸ばすことに向きません。
とっておきの場面にこのカメラを持ち出すことはないと思います。スマホ画面じゃ全然差がわかりませんが、、、
露出計は非搭載
PEN-Fの露出計はオプションで外部取り付け式でした。
後継機であるPEN-FTではTTL測光の内部露出計が内蔵されましたが、プリズム内にハーフミラーを仕込んで露出計の値を標準していたことで、若干ファインダーは暗くなると思います。
通常のPEN-Fもファインダーは暗く、シャッター速度などの表示はありません。
カメラの小ささ
もはや粗探しみたいな感じですが、カメラが小さいほど大きなレンズを扱うことが難しくなります。なんでも出来るカメラではないということは間違いないです。
PEN-Fの性能
シャッターについて
搭載されたシャッターはB・1秒〜1/500までハーフサイズカメラではISO100程度のフィルムを使うと思うので十分な性能であると言えます。
これ以上の速度はローリングシャッターという構造上難しかったのだと思います。
その代わり、通常のフォーカルプレーンシャッターと異なり、どの速度でもシャッター幕が全開となるため、全速でストロボに同調可能になっています。
この時代のシンクロ速度はせいぜい1/60程度であり、80年代に入っても1/250程度だったことを考えると、驚異的な性能になります。
60年代に日中シンクロができる一眼レフはPEN-Fだけだったと思いますが、残念ながらPEN-Fにはホットシューが付いてませんので、シンクロコードがついた古いストロボしか使えません。
マウントアダプターでの拡張性
PEN-Fマウントはミラーの小ささからフランジバックが短いため、現在のミラーレスカメラのように他社メーカーのマウントアダプターが用意されていました。Nikonマウント用などはかなり高価ですが、OMマウント用などは比較的安価に買えるので、OMシステムで揃えている人にはPEN-Fで使用できるレンズの幅が広いです。
PEN-Fマウントは18本しかありませんが、希少性がありボディと共にありえないくらい高いです。
今このカメラを使う理由
70年台に入るとハーフサイズカメラは衰退していきます。
一定の需要はあったでしょうが、後継機が2台目までしか続きませんでした。
しかし、現在では再びフィルムが高騰したことと、縦構図のハーフサイズはスマホで見やすいということで高い人気を維持しています。
不動のジャンク品が2万円近くで売られていることは中々凄い状況です。
フィルムを節約しながら写真を撮れる一眼レフの存在はそれだけで価値があります。
コンパクトでレトロなデザインでありビジュアルという点においても優れ、骨董品ではなく実用的な道具として扱われていることは、撮るカメラユーザーからしたら嬉しくもあります。
このカメラはレンズを複数持って歩くよりは標準レンズをつけて散歩しながら使うカメラだと思います。
カメラはその場に持っていなければ撮影できません。高級なカメラを持っていても家から持ち出さなければ意味がありません。
多少画質が落ちようとも、常に持ち歩くことが重要です。
システムごと持ち出しやすい軽量さが全てであり、多少の欠点を差し引いてもPEN-Fは名ショットを生み出す可能性が高いカメラであると言えると思います。
大変長々とお見苦しい文章で申し訳ありません。
長々とここまで読む人はいないでしょうが、一度は手にしてみるカメラだと思います。
注意点としては、人気のあるカメラほど訳のわからないジャンクが高価格で売られていることも多いので、このノートを参考にして良い個体に巡り合う一助になればと思います。
ご拝読、ありがとうございました。
作例
PEN-F
レンズ F.Zuiko 35mmF1.8
フィルム オリエンタル seagull 400
現像 ミクロファイン 23℃8分
気合いが必要ない感じが良いのです。